農泊でインバウンド受け入れ 協議会が地域の窓口に 異文化交流、収入アップも
2024年1~11月までに日本を訪れた外国人旅行者は3337万人と、コロナ禍前に最高を更新した19年の年間累計を上回った。政府は観光立国を掲げ、農村に人を呼び込むため農泊を推進する。農泊を切り口にして、農家と外国人のマッチングの手だてや、受け入れた農家の受け止めを探ってみた。 習字体験の様子 近代日本の礎を築いた志士を多く輩出した山口県萩市。24年は約350人のインバウンド(訪日外国人)を1組織で迎えた。カナダの旅行会社を通じて、インバウンドを各家庭で2泊3日で受け入れている。
多様な事業者参画
農泊の受け入れ窓口となり、地域を結び付けているのが、萩市ふるさとツーリズム推進協議会だ。市や農家が役員として関わるなど、地域の多様な事業者が参画する。受け入れ家庭22世帯のうち、農家は最多の9世帯で、自営業やサラリーマン、退職者らで構成する。 多い家庭では23年度、23回で63人を受け入れ、100万円以上を体験料として受け取るなど、新たな収入源となっている。 経済的なメリットに加えて、同協議会の宮崎隆秀事務局長は「萩にいながら異文化交流ができ、受け入れによる地域貢献に喜びを感じている世帯は多い」と話す。
地域の価値を実感
同地域で24年の最後の受け入れとなった12月20日、かんきつ農家の石田征大さん(53)、洋子さん(48)家族は2人のドイツ人ツアー客を受け入れた。滞在期間中は要望を聞きながら、温泉や萩名産の夏ミカンの収穫体験などを提供する。 石田洋子さんは「外の人の視点で、自分たちが価値あることをしていると実感できている。生活にも、張り合いが生まれる」と笑顔だ。 ・「開かれた農村」へ 島根県立大学地域政策学部で地域づくりコースを担当する豊田知世准教授の話 知らない人がいきなり大人数でやってきたら当然、戸惑いが生まれる。まずは、地域と外部をつなぎ合わせる仲人役が必要だ。(農泊の受け入れは)1人ではできない。農業者をはじめ、地域で活動するさまざまな事業体が関わるほど、組織はしなやかになる。 理念の共有も大切。例えば、町を紹介するマップを製作するなど、製作の過程で共有していこう。 自分たちの地域には「何もない」という声を聞く機会は多い。「開かれた農村づくり」に向けて農泊といった地域おこしに挑戦してほしい。外と関わり、地域の自主性を育むことで、農村の魅力はさらに高まる。