手作りで圧巻 全国一にもなった名古屋単館シネマ支配人のこだわり装飾ワザ
名古屋市中区にある伏見ミリオン座。シネマコンプレックスが全盛の中、スクリーン3つを有する単館シネマとして、2005年に開館して以来、多くのファンに愛されている。小さな映画館でありながら、現在、他の劇場や配給会社から注目されているきっかけは2014年に行われた劇場装飾コンテストで優勝したこと。支配人の稲垣明子さんに劇場装飾に関するこだわりやきっかけについて聞いた。
映画の魅力を伝えたい思いが始まり
稲垣さんが支配人になったのは3年前。それまではスタッフとして伏見ミリオン座に勤務していた。アルバイト時代から、当時いたスタッフと一緒になって映画の魅力を伝えるために、オリジナルのチラシを作ったり、宣伝内容を考えていたという。大学で映画学科を専攻し学ぶうちに、制作側よりも広める側の仕事に就きたいと思い始めた稲垣さん。 「映画は中身を知らない状態で、お金を払わないといけません。とても大変な現場で作られているからこそ、いい作品を多くの人に伝えたいと思いました」。 館内には公開予定の映画をPRする装飾がいたるところに施されている。登場人物の紹介や相関図、映画で出てくるこだわりのシーンや制作秘話など実に細かい内容が記されており、コメントを書いているスタッフの熱が伝わってくる装飾は、映画を観ていなくても楽しめるほど。 また、館内に置いてあるチラシなどもオリジナルのものを作成しているという。公開中の映画の魅力をまとめた「映画屋新聞」をはじめ、音楽を題材にした映画には音楽雑誌を真似た「ミリオンマガジン」、ゴシップ系の映画にはスポーツ誌を真似た「ミリスポ」など、ユニークな誌面構成はなかなかのクオリティだ。過去に作られたチラシは膨大。だが、プロの業者を介しておらず、すべてスタッフが業務時間内に手作りしているという。
全国の劇場が参加するコンテストで優勝
独自で進めていた映画館内の装飾は、2014年、ある映画の公開を記念して行われた劇場ディスプレイコンテストで優勝を果たす。コンテストの内容は配給会社から公開する劇場に対して、映画に関する材料が渡され、それらを自由に使って映画の魅力を伝えるというもの。伏見ミリオン座では、映画の中で展開されるおもちゃ箱のような世界観などを表現。全国でおよそ60の映画館が参加したコンテストで見事、優勝を果たした。 勝因は、映画が劇場全体をジャックしていたところ。館内のいたるところに、誰かが気付いて見つけるかも、と小さな場所にまで、映画の世界を散りばめた。今の劇場宣伝に自信がついたのは開館当初からつきあいのある配給会社GAGAの存在だという。東京や大阪から来館する度に、装飾を褒めて、面白がってくれた。 「会長がわざわざ観に来てくださったりして、自信がつきましたね」と稲垣さん。優勝したことで、他の劇場や配給会社の人が見学に来ることも増えたという。作品の良さを伝えたいという純粋な思いが実を結んだ。