11歳で「3.11」震災被害を受けた神戸のMF郷家友太が決勝ゴールに込めた特別な思い「いいニュースを届けたかった」
震災発生から43日後の4月23日。仙台が逆転で川崎フロンターレを下した再開初戦を、テレビ観戦しながら心を震わせた。土砂降りの雨が降る敵地で足をつらせながら同点弾を決めたMF太田吉影の姿に、土壇場で決まったDF鎌田次郎の逆転弾に前を向く勇気をもらった。 さかのぼれば3月29日にも、日本代表とのチャリティーマッチでゴールを決め、カズダンスを舞ったJリーグ選抜のFW三浦知良から感動をもらった。中学の途中で仙台のジュニアユースをやめて強豪・青森山田中に転入し、青森山田高2年で手にした高校日本一をへて神戸入りして4年目。節目となる10度目の「3.11」を翌日に控えた一戦で、郷家は自らのゴールで勇気とエールを送った。 「僕自身も被災し、特別な思いをもって臨んだ試合で、まさかゴールという形で返ってくるとは思っていませんでしたけど、被災地へいいニュースを届けられたのでホッとしています」 3試合連続のフル出場を果たしただけではない。計測された総走行距離も、1-0で勝利したガンバ大阪との開幕戦で12.329km、1-1で引き分けた徳島ヴォルティス戦で11.637km、そしてヒーローとしてまばゆいスポットライトを浴びた一戦で12.581kmと、すべてチーム1位をマーク。上手さに強さ、泥臭さも融合させつつある郷家へ、三浦淳寛監督も最大級の褒め言葉を送った。 「ゴールのシーンもそうですけど、前半はフォワードの位置でチェイシングやプレスバックの守備をしっかりとしていたし、後半にポジションを変えてからは上手くゲームをコントロールしながら、チャンスのときには前へ出て行った。彼への評価は非常に高いです」 ベスト4に進出した昨年12月のACLで右太ももに重症を負った、キャプテンのMFアンドレス・イニエスタは開幕から欠場を強いられている。新たに加入した元U-20ブラジル代表のリンコン、ケニア代表のアユブ・マシカの両FWも新型コロナウイルス禍で入国できない状況下で、神戸をけん引していく覚悟と決意を物語るように、郷家は2勝1分けと好スタートを切った軌跡に胸を張った。 「2点のリードを追いつかれて、正直、焦った気持ちもありました。ただ、去年の神戸ならばそのまま引き分けていたか、もしかしたら落としていたかもしれない。今シーズンの神戸は違う、というところをここまでの3試合で見せられている、と思っています」 昨年末に千葉県内で行われた、東京五輪世代となるU-23日本代表候補合宿に初めて招集され、今夏に待つ本大会出場も目標にすえるホープは、昨シーズンにマークした5ゴールの倍となる数字をノルマとして自らに課しながら、Jリーグの舞台で成長の二文字を貪欲に追い求めていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)