徹底検証 台湾・ひまわり運動はなぜ社会運動となったのか
台湾の「ひまわり運動」は、規模としても影響力としても、近年まれにみる学生運動として注目を集めた。「ひまわり運動」が大規模な社会運動として台湾世論の支持をうけた背景に何があったのか。(河野嘉誠)
大学生たちが国会を占拠しているーーーー2014年3月に台湾でおきた、学生らによる立法院占拠事件は、世界中に衝撃を与えた。馬英九政権は3月17日、「中台サービス貿易協定」に関する委員会審議を強制的に打ち切った。これに抗議した学生らが3月18日、台湾の国会に相当する立法院になだれこんだ。学生たちは世論の支持を背景に、24日間にわたり議場の占拠を続け、一連の抗議活動は「ひまわり運動」と呼ばれた。 「サービス貿易協定」は、中台間における「経済協力枠組み協定(ECFA)」の一環として2013年6月に締結された。台湾は中国に通信・病院・旅行・運輸・金融などの市場を条件付きで開放するとされた。台湾の64項目に対し、中国は80項目を開放するなど、台湾に有利な協定と評価する声もあった。しかし、国内弱小産業への影響や、貧富の差の拡大といった問題が根強く懸念されていた。中国資本が出版部門に進出し、言論が抑圧されるとの声もあった。
経済が政治問題に
台湾の経済は中国向け輸出に依存しているといわれる。事実、台湾の輸出はGDPの66パーセント以上を占め、このうち約4割が中国と香港への輸出だ。台湾経済が専門のアジア経済研究所・新領域研究センター次長の佐藤幸人氏は、台湾の高い輸出依存度の背景に中台の分業構造があると指摘する。 「台湾の輸出に占める中国向けの割合は2000年以降、急激に上昇した。それまで台湾国内でおこなわれていたノートブックパソコンの主力工場が、短期間のうちに中国に移転したからだ。部品を台湾から輸出し、中国で組み立てるため、半導体をはじめとする電子部品の中国向け輸出が増加した。現在では、台湾の輸出の約4割を占めるエレクトロニクス製品のうち、半分以上が半導体をはじめとする組み立て用の電子部品だ。台湾から輸出された部品の多くは、欧米向け製品の生産に使用されている」 台湾のエレクトロニクス産業は「受託ビジネス」が多い。鴻海(ホンハイ)は、電子機器の組み立ての受託をおこなうEMSとしては世界最大の企業だ。アップルやHPから発注された電子機器を、中国の主力工場で生産している。また、台湾は半導体の世界的なサプライヤーとして、国内で製造した部品を中国の工場へ輸出する体制が確立している。TSMCは、半導体の受託製造を専門にするピュアファウンドリーとして圧倒的なシェアを誇っており、クアルコムなど半導体の設計を専門にするファブレスから発注を受けている。中国向けの輸出は比率としてはもはや拡大しなくなったが、中台の分業体制は今後も続くというのが佐藤氏の見立てだ。