英原潜造船所で大規模火災 核の危険なしも米英豪「オーカス級」の建造に悪影響不可避
【ロンドン=黒瀬悦成】英中部カンブリア州バローインファーネスにある防衛大手BAEシステムズの原子力潜水艦造船所で10月30日、大規模な火災が発生した。造船所は、米英とオーストラリアの3カ国による安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」が進める豪州向けのオーカス級原子力潜水艦の建造計画の実施主体となっており、専門家などの間では、火災を受けて計画に悪影響が生じるとの懸念が広がっている。 火災では煙を吸った従業員2人が病院に運ばれた。地元当局は「核の危険性はない」としている。現時点では放火の可能性は低いとされるが、火災の原因は明らかになっていない。 造船所では現在、英海軍向けのアスチュート級攻撃型原潜と、核弾頭搭載の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を装備する新型のドレッドノート級戦略原潜を建造中だが、火災が起きる前から工期の遅れが指摘されてきた。 造船所は加えて、英国の設計による新型のオーカス級原潜を建造して2030年代後半に豪州に引き渡すことを予定している。 だが、火災で英海軍向けの建造が滞ればオーカス級にも遅れが出るのは避けられず、インド太平洋地域での中国の脅威への対応にも影を落としかねない。 スナク前英政権は今年3月、原潜建造のペースを上げるため、7億6300万ポンド(約1495億円)を投じて30年までに8千人以上の原潜建造従事者を育成するなどの原潜産業の底上げ策を発表したが、火災を受けて前途は一気に険しくなった。一連の原潜建造計画が通常軌道に戻るには時間がかかる恐れもある。