「このままでは大変なことに!」父の死から20年、きょうだい全員で守った父の遺言だったが…法改正の結果引き起こされた、とんでもない事態
「財産の共有」を指示する遺言書…効力はあるか?
財産の処分の仕方を記載するのが遺言書の目的のひとつではありますが、父親の遺言書は「自分の財産は子どもたちで共有するように」という内容のみで、分け方の方法は書かれていません。結果的に、6人の子どもたちに父親名義のまま〈共有〉された状態で、長い年月が過ぎてしまったといえます。 遺言書では、財産の分配を決めておくことが一般的ですが、陽子さん、美香さんの父親のように「自分の財産は相続人の間で共有してほしい」といった、遺産分割を禁止する内容を定めることも可能だとされています。 しかし、遺言書による「遺産分割の禁止」にも期限があります。令和3年の法改正で、相続人の合意による遺産分割禁止は10年まで、一部または全部の合意ができることとなりました。それまでは5年以内だったものが改正されたかたちです。家庭裁判所の判断による分割禁止も、同様に10年以内とされています。 本件の場合は、父親が亡くなってからすでに20年以上の年月が経過しています。陽子さん、美香さん姉妹をはじめとするきょうだい6人は、父親の意向を汲み取って財産を共有してきました。そして時間の経過とともに「遺産分割禁止」「きょうだい間での共有」という縛りが消失し、逆に、遺産分割をしなくてはならない局面になったのです。
これから遺産分割協議が必要に
父親の遺言書で手続きができないなら、相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。 陽子さんと美香さんの上には、長女、長男、二男、三男のきょうだいがあり、父親が亡くなったときには全員健在でしたが、この20年間で、長女、長男、二男が亡くなってしまいました。そのため、長女の子ども2人、長男の子ども2人、二男の子ども3人が代襲相続人となります。三男、陽子さん、美香さんを合わせると、相続人は10人です。 父親名義の土地は100坪で、土地の5割程度の部分に母屋が建っています。父親が亡くなってからは空き家ですが、父親の遺言通りに維持するため、陽子さん、美香さんが毎月のように実家を掃除し、お墓参りもして維持しています。固定資産税等は、亡くなった父親が遺した貯金から支払っており、このお金は陽子さんが几帳面に管理しています。 敷地の一部には、三男が家を建てて住んでいることから、長男亡きあとは三男が実家やお墓を守る役割を負うべきだと、陽子さんと美香さんは考えていますが、三男は自身の健康問題を理由に、それを拒否しています。 三男もすでに80代となり、陽子さん、美香さんも70代です。いつ次の相続が起きてもおかしくありません。そうした状況で、速やかに父親の相続の手続きをしてしまいたいというのが姉妹の共通した意見なのですが、肝心の三男は、話をまとめる気力も、継承する気持ちもないため、困っているのです。