「このままでは大変なことに!」父の死から20年、きょうだい全員で守った父の遺言だったが…法改正の結果引き起こされた、とんでもない事態
数少ない解決策も、当事者が高齢で身動きがつかず…
土地全体を売却して法定割合で分けることがいちばん公平な解決策なのですが、敷地内に住む三男はいやがり、話が進みません。 次の解決策としては、三男の家部分を分筆してその土地を相続してもらい、実家を含む土地を売却し、ほかの相続人と法定割合で分けるという方法がありますが、それも渋っているといいます。 「3番目の兄は、私たちを困らせようとしているわけではないんです。年を取って、何度か大病もして、体がしんどいのだと思います。一番上の兄が生きていたときに、きちんとしておけばよかったのですが…」 陽子さんはそういうと、うつむきました。 いずれにしても、次の相続が起きてしまったら、事態はさらに複雑化します。なにより、2024年4月1日からは相続登記の申請が義務化され、すでに先延ばしができない状況です。筆者は、代襲相続人を交え、早急に話し合いをするようお勧めしました。 「きょうだいみんなで父の言いつけを守った結果、こんな面倒なことになるなんて。父だって、こんな状況を望んだわけではないと思いますが…」 陽子さんが残念そうにいうと、美香さんは、 「だからいったじゃない。父が亡くなったとき、遺言なんか無視して、さっさと売ってお金を分けておけばよかった。あのときにまとまったお金があれば、下の子の進学も希望をかなえてやれたのに…」 と、悔しそうにつぶやきました。 陽子さんと美香さんは、まずは3番目の兄と改めて話し合いをしてみます、といって、事務所を後にしました。 筆者は今後も本件のサポートにあたりますが、上述したように、法改正もあり、かつてのように相続登記をすませないまま不動産を放置することが許されない状況となりました。今回は、父親の死から20年以上の時間が経過し、関係者が亡くなったり、高齢になったりして話し合いが困難な状況に陥ったわけですが、超高齢社会となったいま、相続が発生した段階で、相続人がすでに高齢となっており、陽子さん、美香さんのような苦労に直面することも十分考えられます。 相続は、発生してからではできる対策が限られてしまいます。発生する前から、親族間で腹を割って話し合いを行い、将来に備えることが重要なのです。 ※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。 曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士 ◆相続対策専門士とは?◆ 公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。 「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
曽根 惠子