【連載】会社員が自転車で南極点へ8「時速1キロの自転車旅行」
手がガクガクと震えけいれん エリックが介抱
気付いた時、僕はエリックに介抱されていた。僕を呼ぶエリックの声が聴こえる。 どうやら僕は、倒れてしまったようだ。手がガクガクと震えけいれんを起こしている。おもちゃみたいだ、と思った。 驚いたことにエリックがぼくのソリを引いてくれるという。僕は少しの間は任せていたがもうしわけなくなり結局自分で引いた。こんな惨めなことはなかった。
この日は1日中、走って、歩いて、押してを繰り返した。10時間以上は行動していただろう。にもかかわらず、今日進んだ距離は、僅か18キロであった。 時速2キロのペース。 時には時速1キロのときもあった。昼間のエリックとの喧嘩もあり、テントの中の雰囲気は決していいものではなかった。このまま時速1~2キロペースで進んで、南極点まで予定通り着くことができるのだろうか? 「リタイア」──最悪の選択肢が脳裏に浮かんだ。 南緯89度07分。僕達はまだ、南極点への道のりに、足を踏み入れたばかりだった。