【連載】会社員が自転車で南極点へ8「時速1キロの自転車旅行」
出発早々ケンカに ペースの違いから
【連載】会社員自転車で南極点へ8「時速1キロの自転車旅行」
南極点に向かって自転車で走りはじめた僕とエリックのチームだったが、出発早々、喧嘩になった。走行のペースの違いから、お互いがはぐれるという事態が起こったからだ。 【前回分】会社員自転車で南極点へ7「大氷原でガイドとの破局」
「僕はお前のペースについていけない」
「なぁ、エリック。僕たちのミッションはなんだ?おまえ一人で南極点に行くことか?」 僕は、静かに、しかし、怒りを込めながら言った。エリックが、それは誤解だ!俺はおまえが南極点に立つために、ここにいるんだよ、と言うので、「じゃあ、お前がしてることはなんなんだよ。重い荷物を僕に押し付けて、一人でさっさと先に行ってるじゃないかよ。おまえ一人でゴールしても意味がないんだよ。チームで進まないと、ここでは生き残っていけないんだ」 「テントや通信機器は僕が持っているんだからさ。僕とはぐれて困るのはお前だろう。わかるか?エリック。僕もお前も、今はチームにとって何が最善考えて動かないといけない。お前が速いのはよくわかった。しかしぼくはおまえについていけないんだ。この意味がわかるか?」 「僕は弱いんだよ!」 「・・・本当に、ごめん。僕はお前のペースについていけない」
数百メートルごとに後ろを確認してくれることに
南極の大氷原で口論したことは、意外な結果を僕たちにもたらした。「Yoshi、俺が悪かった。 これから、しばらく進んだら、後ろを都度確認するよ」 エリックはそういって、次からは数百メートルごとに後ろを確認してくれることになったのだ。僕達は手信号を共有しあい、それからは、都度、お互いが離れないように、確認作業を続けていった。 困難は続いた。チームで走っているため食べ物、飲み物が思うようにとれなかった。空腹、喉の渇きをはっきりと感じるようになった。いつもならば、一人なので、お腹がすく前に携帯食料を口にほおりこんでいるし、喉が渇く前にこまめに水分を補給している。 しかし、他人のペースに合わせなければいけない複数での行動においては、自分の体調は二の次にされるのだ。彼が休憩するまで、僕も休憩できない。やがて、足に力が入らなくなった。ハンガーノックと呼ばれるエネルギー不足の状態だ。それでも、歯を食いしばりながら、なんとかエリックと歩調を合わせようとする。 長い長い時間を、僕は何も考えずに歩いた。 意識が朦朧としていたと思う。