目黒蓮も主人公も逆境を乗り越えてほしい『海のはじまり』実父にだけ吐き出した“つらさ”とは
離れていた実の父に会うのが悲しいシチュエーションである皮肉
ふたりきりになると、海も夏の子ではないだろうと、女性を悪く言う基春の無神経さに夏は思わず椅子を蹴って大きな音を立ててしまう。 いつもひたすら穏やかな夏が、あとで海にまで「こわい」と怯えられてしまうほどの激情を表に出すなんてちょっとショックではある。が、自分が父になってみて、実の父に会ってみようと思ったら、ひどい態度をとられたのだから無理はない。 離れていた実の父に会うということは、海と夏の状況を同じであり、それがこんなに悲しいシチュエーションであることは皮肉めいている。 「パパってあだ名みたいなものでさ、みんな違う人なんだよ」と大和は達観したことを海に語る。彼の場合は実母が亡くなったあと父・和哉(林泰文)が再婚して、母がふたりになった。いまの母ゆき子と仲は良いけれど、実母といまの母の呼び方をこっそり変えていて、彼には彼の葛藤があるのだ。 凹んだ夏は、弥生に父と会った話をする。彼女は親とうまくいってない経験者として理解を示す。そんな弥生をまた無用に傷つける夏(もはやコーナー化)。 遺灰が入っていると知らず、ネックレスを遊ぶときには危ないから外そうとした弥生に「やめて!」ときつい声を出してしまった。ハッとなりながら、ずっといられてよかったねと、海に向き合う弥生は、ただただやさしい。
基春から夏に受け継がれたカメラ
さて、基春は、夏に愛情の欠片もないように見えて、その後、かつて行きつけだった新田写真館に顔を出し息子を気にする素振りを見せていた。顔見知りの新田良彦(山崎樹範)は基春が釣り堀で待っていると伝える。 そこで、基春は少し本音を話しだす。釣り、競馬、麻雀に興じる基春(腕には金運のお守りタイガーアイらしい数珠ブレス)にもフィルムカメラのような文化的趣味を持っていたのかと思えば、トイレに行くたびにくっついてくるような幼い夏がおもしろくて、写真に撮ろうと思って買っただけのものだった。デジカメでよかったのにフィルムカメラをうっかり買ってしまったのだと。 基春から夏に受け継がれたカメラは、90年代、バブル期に発売されておしゃれで人気だったコンタックスContax T2 である。高級なCarl Zeissのレンズが売りだった。 基春はカメラ量販店の目立つところに置いてあって、見た目も性能も当時、ダントツだっただろうから、つい大枚はたいて買ってしまったのだろう。チタン製のボディとか男性が惹かれそうなガジェット。いわゆるモテ機である。