馬毛島基地バブル「光と影」 高い日当、崩れる産業構造「この上3年延長か」 潤うはずの建設業者も「利益出るか不安」
「馬毛島基地 工期3年延長」-。9月11日、鹿児島県西之表市の農業男性(72)は、新聞記事に見入った。「急いで工事を始めるからこうなった。完成に10年以上かかるという話も関連業者から聞かれる」。種子島から西へ約10キロ。馬毛島で進む自衛隊基地整備への不信感は増すばかりだ。 【写真】〈馬毛島の変化を写真で比べる〉北側上空から見た馬毛島。左は2023年1月12日撮影、右は24年1月8日撮影=いずれも本社チャーター機から
工事関係者や隊員の居住による交流人口の拡大と地域の活性化を期待し、基地推進派の団体で会長を務めた。本格着工から約1年9カ月。「国も事業者も顔が見えない。地産地消の約束を守る努力もなく、農業は人手を取られるだけ。これでは他の産業との格差が広がってしまう」と漏らす。 国は馬毛島周辺の漁場に与える影響を踏まえ、地元の種子島漁協に約22億円の補償金を支払った。組合員にも配分されたものの、工期延長に不安を抱く漁業者もいる。工事関係者を漁船で送迎する60代男性は「作業員の増加で、1日2往復が4往復になる話も出ている」と明かす。「日当は増えるが、ますます漁に出る気力も体力もなくなるだろう。水揚げが低調だと仲買人も困り、やがて市場は崩壊するのではないか」 地場産業を揺るがす巨大な国家プロジェクト。人材は引く手あまたとされ、中でも介護・福祉分野は工事関係者の仮設宿舎の食事や室内清掃といった仕事に流れるケースが少なくない。
市は2023年度から介護・福祉をはじめ、医療や子育て、1次産業など8分野に就職奨励金の給付を始めた。だが、離職者を補うほどの成果はない。市社会福祉協議会の種子島秀洲会長(80)は「ヘルパーがおらず、基地があれば騒音の心配もある。高齢者が住める環境ではなくなってしまう」と危機感を募らせる。 安定収入が見込めるはずの公共工事とはいえ、建設業者にも「誤算」が続く。「とにかく人が足りない中で、積極的に馬毛島に関わろうとする業者は少ないのでは」と霧島市の建設業の男性。大都市との賃金格差で新規採用は難しく、技術者を県外に引き抜かれた例もある。業界は4月から残業規制が適用され、人手不足は深刻さが増す。 工期延長は「離島の離島」という特殊な施工環境が一因だ。ロシアのウクライナ侵攻などによる建設資材の高騰も続く。国の見通しの甘さは否めない。 鹿児島市の建設業関係者は「下請けで仕事を取っても、工期が長引けば利益が出るか見通せない」とぼやく。同市周辺に甚大な被害をもたらした1993年の「8・6水害」では急増した復旧工事を受注しようと、過剰に設備投資した業者の倒産が相次いだ。「8・6の記憶があるから慎重になる。適正な規模の仕事が継続して入る方がありがたい」
防衛省によると、馬毛島では24時間体制で造成工事が進む。夜間もこうこうと照明がたかれ、不夜城さながらの様相を呈している。
南日本新聞 | 鹿児島