阪神・佐藤輝の「再生ポイント」は守備ではない気がする 象徴的だった9月の巨人戦、岡田監督がこぼした「そのぐらいやってくれると思ったけどなぁ」
◇コラム「田所龍一の『虎カルテ』」 甲子園球場での秋季練習を終え、藤川阪神は11月1日から高知・安芸での秋季キャンプに入った。5勤1休、17日までの約2週間で若虎たちをどこまで鍛えあげれるか…。だが注目すべきところは若虎ではない。フル参加を宣言した佐藤輝の「再生」である。 ◆痛恨失策で2軍落ち…特守する佐藤輝【写真複数】 就任早々、藤川監督は「お前がリーダーとなって姿を見せてくれ」と佐藤輝に声をかけた。当然だろう。いま噂に上がっているように、もし大山がFA宣言してタイガースを去れば、空いた「4番」の席を佐藤輝に任せなければいけなくなる。だが、今季の成績(打率.268、本塁打16本、打点70)では到底無理。本来なら「シーズンの疲れを取れ」と言いたいところだが《サトテル再生》は急務なのだ。 では、佐藤輝のどこを「再生」すべきなのか。新首脳陣は連日の「特守」で守備力を鍛え直している。今季、リーグ最高の23失策をしたのだから当然といえば当然。守備の不安が打撃に影響している―と首脳陣は分析したのだろう。あるOBはこういう。 「輝は守備はうまいよ。打球への反応もいいし、むしろ打てなくなったときに、集中力を欠いてエラーする。本来は打撃を磨きたいところだが、特守によって足腰も鍛えられる。打撃にもきっといい影響が出ると思う」 そうであればいいのだが…。というのも佐藤輝の「再生ポイント」はそこではないような気がするのだ。そこで、岡田前監督の《佐藤評》をご紹介しよう。 9月23日の巨人との最終決戦に0-1で敗れ「アレンパ」の夢が消えた試合。0-0の同点で迎えた6回無死二塁のチャンスで佐藤輝はセンターフライを打ち上げた。そして1点を追う9回には先頭打者で巨人・大勢にあっさりと遊ゴロに打ち取られた。 「ヒットを打ちに打席に入るのも必要やけど、状況に応じたバッティングというもんがあるやんか。あそこは最悪、二ゴロでも三塁に進める―そういう状況やんか。この時期にきて、相手(巨人)も優勝かかってるねんで、そう簡単にヒット打てるボールなんか来るかいな。当たり前のことやん」 岡田監督は珍しく采配を悔やんだ。「完璧に失敗した。進塁打のサインを出せばよかった」と。だが、なぜサインを出さなかったのだろう? 「ここまで来たら出さんでも分かるやろと思った。けど分かってへんかった。アレで終わりよ。あのフライアウト(中飛)で終わり。自分も終わりやけど、チームも終わるんやから。それが分からんようじゃ…。けど、何とか打つポイントを前にして、形だけでもセカンドゴロ打ちにいくとか、そのぐらいやってくれると思ったけどなぁ」 岡田監督はガッカリ。そして小さな声でつぶやいた。 「教育やな。バッティングの技術やないよ。野球観というか、野球を知ってる知らん、そういうアレやろな。結局、勝つためのバッティング、点をとるためのバッティングとかは、打席で自分で考えてやるしかないからのう」 1点を追う9回、先頭打者の佐藤輝に岡田監督はコーチを経由して「大勢はコントロールが悪いから、四球取れればええから」と指示した。だが、佐藤輝は1球目、2球目のボールを振って2ストライクに追い込まれ、あっさりと遊ゴロに倒れた。 「こらもうアカンと思たわ。野球をやってるモンやったら、状況みたら誰でも(何が何でも出塁することが大事と)分かる。それを、自分の打ちそこないを悔しがってるようじゃアカンやろ。昔やったら大変やで。《ベンチに帰ってくんな!》《あっちのベンチに行け!》と先輩から怒鳴られとるで。今は甘いもんな。優しいというか…」 シーズン前に岡田監督は佐藤輝に大きな期待を寄せていた。 「アイツにはまだまだ伸びしろがある。超一流の選手になれるか普通の選手のままかは、今季にかかってるやろな」 結局、佐藤輝は「普通の選手」だったのだろうか。 「ずっと言うてるやんか。《ちゃんと練習して》《ちゃんと自分の打ち方を分かっている》ヤツが大事な場面で打てるんや―って」 岡田前監督の残した言葉にはズシリとした重みがある。当然、このことは藤川監督以下、新スタッフにも伝わっていることだろう。佐藤輝の「再生」に期待しよう。再生はまだ始まったばかりだ。 ▼田所龍一(たどころ・りゅういち) 1956(昭和31)年3月6日生まれ、大阪府池田市出身の68歳。大阪芸術大学芸術学部文芸学科卒。79年にサンケイスポーツ入社。同年12月から虎番記者に。85年の「日本一」など10年にわたって担当。その後、産経新聞社運動部長、京都、中部総局長など歴任。産経新聞夕刊で『虎番疾風録』『勇者の物語』『小林繁伝』を執筆。
中日スポーツ