高知東生59歳が“自分の弱さ”をさらけ出せるようになるまで。「恥を知られたら負け」だと思っていたけど
自分を見つめて“歪んだ認知”があると知った
――自助グループと出会ったときは、どんな状態だったのですか? 高知:歪んだ認知を持ってたね。 ――“歪んだ認知”ですか? 高知:たとえば、自分の弱さを人に知られたら負けとか。今のグループとの出会いで言うと、『アディクトを待ちながら』のプロデューサーの田中紀子のパワーが、まずとにかくすごかった。実際に出会う前から、存在は知ってたんですけどね。 ――というと。 高知:マトリ(麻薬取締官)が来たとき、オレが「来てくれてありがとう」と言ったことで叩かれまくっていたとき、唯一擁護してくれた人だったんです。「これは依存症者に“あるある”のことで、“これで終わった”“これでやめられる”という、ホッとした正直な気持ち。決して反省していないとか、そういうことじゃない。正直に語り始めているということは、彼は回復できそうな気がする」と、ある記事で言ってくれていた。 それで名前を覚えていて、“オレはこうやって生きている”とTwitterに書いていたなかで、彼女と繋がって会うことになったんです。最初、喫茶店で7時間喋りました。 ――7時間!? 高知:今思うと嬉しかったんだろうな。まず今までの人と違うと思ったのが、彼女は自分のことを最初に全部さらけ出してくれたんです。「自分も依存症者で回復している。それで今度は苦しんでいる人の手助けになるために動いているんだ」と。ここでもオレは、男たるもの、女たるものみたいな“歪んだ認知”があったんだけど、異性である女性が、弱さも全部ふくめて、他人にそんなことまで話していいの?ということまで話してくれました。 ――高知さんは、そのときご自身のことを話せたんですか? 高知:全ては話せないけど、自分の気持ちに一歩踏み込んで、「いま苦しい、寂しい。人間不信だ」といったことは話せました。そこから彼女は、間髪入れずに仲間たちに会う時間をどんどん作ってくれた。気持ちを分かってくれるから、もちろんオレのほうも会いたいし、自助グループも勧めてくれた。山梨ダルクとか、いろんな民間団体に行きました。 そのうち著名人を集めた自助グループも作ってみようという話が出た。特殊な職業だから、共感し合えるだろうと。彼女が食事会を設定してくれました。オレとNHKのアナウンサーの塚本堅一くんと、あとZIGGYのボーカルの森重樹一。それが後に「花の2016年組」(※)につながった。 (※)高知さん、塚本さん、歌手の杉田あきひろさん、元プロ野球選手の清原和博さんが、全員2016年に薬物で逮捕された4人だとして自虐的に使っている言葉 ――有名人同士だから分かり合えることは多いでしょうね。 高知:田中聖くんも、彼が収監されるギリギリまで会ってたよ。あとその前から、オレは自分自身の過去を振り返って、罪と、依存症という病気を認める12stepというプログラムをやってたんです。なぜ自分がそこに至ってしまったのかという背景と自分のクセ、考えの捉え方を知っていく。 今は自分の捉え方を“歪んだ認知”と呼んでるけど、それによって、自分で勝手にストレスを作り出す。で、コップいっぱいになるとこぼれちゃう。そうならないよう、自分と向き合って、洗いざらい話して、今度は自分が苦しめたり傷つけたりした人にアポを取ったりして謝っていった。 ――そうできたのも、仲間の存在があったからでしょうか。 高知:共感し合える仲間ね。あと家族の自助グループも必要だと痛感している。いろんなセミナーとか相談会に行ったり、やったりすると、当事者以上に家族が緊張したり涙を流しながら、自分の犯した罪のように抱え込んで来るんだよね。そういうのをたくさん見てきた。 ――「きちんとご家族が管理してください」といった言葉をよく聞きます。 高知:家族は家族で自分を大事にしないと。家族にこそ言えないことってあるし、当事者も家族も、同じ苦しさを共感できる相手と、他人だから話すことが必要。 あと資格や知識、立場より、理解ある人と出会わないとダメだよね。誰と繋がり直すかで、その人の人生って決まると思うんだけど、それが現状運に左右されている。誰と繋がるか、繋がり直すか。間違った人と出会って、理解ないひと言で、回復できたり生き直すことに近づけぬままに再犯したり、余計に苦しんだりすることがある。