【震災とイエ(2)】家々の土台が剥がされていく
荒浜が、夕焼けの赤色に染まる。「こうなると、日が暮れるのはあっと言う間。寒くなるよ」と、佐藤さんが急いで作業の片付けを始める。荒浜の大地から剥がされていく家々の土台のもとには、まだ小さな松の苗が、あちらこちらに生えていた。荒浜の海岸には震災前、住民に愛された豊かな松林があった。「震災のとき、松の木が子孫を残すためなのか、たくさん種を落としたんです。それが今、こうして生えてきた。土台を取るとき、切らないであげてほしい」と、愛おしそうに見渡した。 (文・写真 安藤歩美/THE EAST TIMES) 【連載】あの日、何が流されたのか 東日本大震災と「イエ」 東北には先祖代々からの土地を何百年と受け継ぐ家も多く、今日までその土地や「家」に根ざした文化や信仰が生き続けてきました。震災で家が流され、突然先祖や土地との連続性を断たれたとき、そこには、物理的な「家」の破壊以上の喪失があったのではないでしょうか。あの日、何が流されたのか。今もう一度見つめ直すと同時に、震災から5年近くが経ち、被災した人々と家、土地との関係にどんな変化が起きているのかを探ります。 【震災とイエ(1)】放火された自宅の跡地で