大いなる山 Mt.デナリ・カシンリッジへの挑戦 準備編|#1
大いなる山 Mt.デナリ・カシンリッジへの挑戦 準備編|#1
北米大陸最高峰、デナリ(標高6、190m)。7大陸最高峰のひとつに数えられ、その難易度はエベレスト登山より高いという声もある。 高所登山としての難しさだけでなく、自身による荷揚げ(ポーター不在)、トレイルヘッドからの比高の高さ、北極圏に近い環境など、複合的要素が絡み、登頂成功率(※2023年度)は30%前後。 そんなデナリへ初めて挑んだ、山岳ガイドの山行を振り返る。 文・写真◉佐藤勇介 編集◉PEAKS編集部。
直感
2023年11月、鹿児島県・屋久島にあるモッチョム岳の岩壁を登りに行ったときのことだ。今回のパートナーで同じ山岳ガイドの井出光俊から「来年、デナリに行かないか? 」と誘いを受けた。デナリとなれば1カ月近くの遠征になる。すでに仕事の予定が入っていたが、ルートはカシンリッジ(*)からのとのこと。条件反射的に「行きたい! 」と応えていた。 それから即座に予定を調整し、デナリ遠征への計画・準備に入ることとなった(予定変更に快く応じて下さったみなさま、ありがとうございます)。 私は判断に迷ったときは直感に従うことにしている。いくら長い時間、思い悩んだところで結局は一番初めに「いい」と思ったものを自分は選択するということを知っているからだ。だからコンビニでパンや飲み物を買うときも、一番初めに目に入ったものを選んでいる(笑)。直観はいつも間違いない! 北米最高峰であるデナリは標高6、190m。長らくマッキンリーと呼ばれていたが、2015年に北米先住民の呼び名である「デナリ」が正式名称となった。デナリは現地の言葉で「高きもの」「偉大なるもの」を意味している。その名が示すとおり、実際エベレストよりも大きい。標高はエベレストのほうが3、000m近く高いが、チベット高原からは3、700mの高度差にすぎない。対して、デナリの麓の標高は600mほど。そこからの比高は5、500mに達する。麓から見た大きさはデナリのほうがはるかに勝っているのだ。 標高6、190mは私にとっては未知の領域。高地障害が出る標高は人によってそれぞれだが、ここまでの高度に順応しながら進めていく登山は初めてだった。何事もやってみないとわからない。そういえば芸術家の岡本太郎もこんな言葉を残していた。「怖ければ怖いほど逆にそこに飛び込むんだ。やってごらん」と。 デナリに行くにあたって、もうひとり同行者が加わった。同じく山岳ガイドの宇井太雄である。 同行者を募ったのにはわけがある。長期にわたる山では3人パーティがベストだと思っている。荷物を分担できるということももちろんだが、意見が割れたときにふたりだと真っ向から対立してしまうことがある。3人いれば意見もまとまりやすいし、雰囲気も和むというもの。3人だと道中の話題が途切れづらく、不意のトラブルにも対応しやすいもの。 そしてもしかすると、出発前に病気や怪我をしてしまう可能性もあるだろう。そんなときも3人いれば、ひとり欠けても山行を中止しなくとも済むわけだ。