大いなる山 Mt.デナリ・カシンリッジへの挑戦 準備編|#1
準備山行
難易度の高い山にトライするには山行準備をしっかりと行なわなければならない。おもに計画、装備、食糧、体力づくりなどが挙げられるが、なによりも同行者との意思疎通が大事だと思う。井出とはこれまで幾度となくともに山に登ってきたが、宇井とは今回が初めてである。 おたがいを理解するには山に行くのが一番。準備山行をすることによって装備や食糧の確認ができるし、なによりもテントの中でじっくりと細かい打ち合わせの時間をとれることが大きい。今回は軽量化のため、ロープは1本だけにして登ることに決めた。通常、3人パーティであればロープ2本を使ったダブルロープシステムでおたがいに確保しながら交代で登るスタカットクライミングを行なうが、どうしても行動が遅くなる。登攀スピードも重要なカシンリッジでは、難しくない部分はロープ1本で同時行動(コンティニュアスクライミング)を積極的に行なう必要があった。始めから1本のほうがスピーディで効率的でもあると考えたからだ。 当然、いいことばかりではなく不具合も起きやすいので、いろいろ確認しておく必要があった。 準備山行ではいくつかの要素を念頭においてルートを選んだ。 ・幕営装備を含んだ登攀であること ・アイスクライミングパートがあること ・登攀距離が長いこと である。そして氷河上を歩くためにクレバスレスキューも取り入れた。 天候不順や雪不足などもあってルート変更を強いられたが、概ねよいトレーニングを行なうことができたと思う。
低酸素室
トレーニングのひとつとして高度順応がある。もっともポピュラーなのは富士山に登ることだ。今回ももちろん富士登山を計画に入れていたが(実際は天候不順のため登らず)、念のため低酸素室にも通うことにした。 低酸素室を利用する利点は事前の高地順化とトレーニングによるパフォーマンスの向上だが、もうひとつ大事なことがある。高地障害の現われ方は人それぞれで、標高2、000mで発症する人がいるいっぽう、4、000mでも平気な人もいるし、症状の出現内容も人による。始めに頭が痛くなる人もいれば、気分が悪くなる人もいる。 重要なのは自分にどんな高地障害の特性があるか知ることだ。早めに対処・判断ができれば、重症化を防ぐことができる。事実、高地障害で死亡したり搬送されたりするケースはデナリでも少なくない。日本の山でも高度に弱い人は、あらかじめ低酸素室に入って高地酸素濃度を体験しておくといいだろう。 装備の選択や食糧計画、事前の申請手続き、現地での移動や宿の手配など、慌ただしく進めているうちに出発が目前に迫ってきた。完璧な準備が整ったとは言い難かったが、「あとは野となれ山となれ」の精神で部屋いっぱいに拡がった大量の荷物を大型のダッフルバックに詰め込むのであった。 文・写真◉佐藤勇介/編集◉PEAKS編集部
PEAKS編集部