常軌を逸したロードカー、ジャガーXJR-15から「にじみ出る狂気」
ロードカー?それともレーシングカー?
●ロードカー?それともレーシングカー? 私たちがジャガー・ランドローバー・クラシックに招かれてミッドランドのフェン・エンドに集まったのは、そのロードカーの1台のためである。JLRクラシックは最近この車の売却を委託されたという。お目当てのXJR-15のシャシーナンバーは「21」で、新車として日本に輸出され、かの地でテストされた最初のXJR -15である。この車は『Car Graphic』誌の1991年9月号で取り上げられた車そのもので、同誌の記事ではフェラーリF40やジャガーXJ220と同列に語られている。 2014年になって英国に戻り、3年後にはジャガーの専門家によって1年以上かけて徹底的に手が入れられたという。行き届いた記録によれば、燃料ポンプやウォーターポンプ、配管類、クラッチ、タイヤそして燃料タンク、さらにはヒンジやロック類に至るまで交換された。過去数か月の間に、FIAのお墨付きとともに正式に登録されたこのXJR-15は、ジャガー・ランドローバー・クラシックによって隅々までチェックを受けた。この後フルサービスと1年間の保証付きで売り出される前のわずかなチャンスに『Octane』が忍び込んだというわけだ。 第二次世界大戦当時の英国空軍飛行基地の跡地は、XJR-15にまことに似つかわしい場所に見えた。XJR -15のプロファイルは航空機を思い起こさせるからだ。キャノピーのような長いコクピットはテールウィングに巧妙につながりエアロダイナミクスと美意識を主張し、ポップアップ・ヘッドライトはボディラインに溶け込んでいる。流れるような美しいラインは大きなタイヤを引き立たせている。ピレリPゼロはフロントが245/40ZR17、リアは335/35という太さである。 幅広いサイドシルを乗り越えて身体を滑り込ませると、カーボンファイバーの織物に包まれていることが分かる。ドライビングポジションは中央ではないが、幾分そう感じさせるのは、ドライバーが車の中心に向けて斜めに座るからだろう。スティーブンスと彼のチームが二人の人間を快適に座らせようとした努力が見て取れる。ペダルの左にある薄い“壁”も同様、パセンジャーの脚にいたずらできないようにする配慮である。 重要なコントロール類はすべてドライバーの右側にまとめられている。キルスイッチとエンジン始動のための4つの小さなトグルスイッチ、太く短いシフトレバー、そしてシフトパターンを記した小さなプレートが取り付けられている。まったくロードカーには見えないし、感じられない。そのうえロールケージとハーネスが備わっている。写真撮影のためにゆっくりと走行した際にはヘルメットをかぶらなかったが、本気で走る場合はヘルメットがなければ、剥き出しの頭をロールケージにぶつけてしまうだろう。 XJR-15をスタートさせるのは非常にシンプルだ。スターターを回し、スロットルペダルを軽くあおり、わずかに踏んだままにすると火が入る。V12エンジンはアイドリング時でさえ、遠い雷鳴のような恐ろしいゴロゴロという音をまき散らすが、奇妙なことにこの場所ではそれが相応しく思えた。かつて、英国工業地帯の空をドイツ軍から守るためにボーファイターやモスキート、ハリケーンやスピットファイヤーのプロペラの轟音に満ちていたはずだからだ。 スペックを見る限り、とんでもなく獰猛で野蛮な車を想像するかもしれないが、実はそうでもない。振動を気にする間もなく、決然と容赦なく加速していくのだ。数ラップして少しは自信が生まれたタイミングで、長いストレートで床までスロットルペダルを踏んでみると、ジャガーは獲物を求める咆哮を絞り出しながら、水平線に吸い込まれるように速度を上げる。150mphはあっという間で、5速に一瞬入った途端にストレート半ばのわずかな盛り上がりを越え、急速に大きくなるバンクが目に入る。私たちはバンクを使わずにフラットなヘアピンを通ったが、そのためにはギアを3段落としてスピードを十分に落とさなければならなかった。実はそれが容易ではなかった。APレーシングのブレーキの感触は素晴らしく、クラッチも同様で低速でも奇妙なほどに扱いやすかったのだが、それに比べてギアボックスは不正確だった。各ゲートは接近しており、レバーも太く短く手応えもしっかりしたものだが、2速と3速のゲート位置があいまいだったのである。特に2速はリバースと隣り合っている上にロック機構がなかった。だが3周目に上手い方法を発見した。シートの縫い目に沿って操作すれば、間違えずに2速にシフトできると気づいたのである。シートのステッチ?やはりロードカーである。 同じコーナーでXJR-15の本来の姿を垣間見ることができた。ハードブレーキング時には不安定な動きを見せ、車重の1/3を占める背後のエンジンの重さが前に移動していることを嫌でも思い知らされる。同様に、コーナーの出口でちょっと早めにパワーを与えても、私程度のスピードではトラクションを失うようなことはまったくなかった。当時のインターコンチネンタル・チャレンジの車が履いていたブリヂストンのグリップにドライバーたちは不満をこぼしていたというが、ピレリはまったくそんな兆候を見せなかった。 ジャガーは本当に拍子抜けするぐらいフラットなままコーナーを回る。さらに回転半径も予想外に小さく、ヘルメットを脱いでそういうことを考えていると、実はレーサーよりもロードカーではないか、という思いが大きくなっていく。いや、それは早計である。他の部分、たとえばペダルボックスを見てみよう。本格的な構成で、しかもブレーキペダルの右側が削り取られている。おそらくはヒール&トゥを助けるためだろう。さらにベンチレーションである。小さなXJ-S用のベントが二つ、いかにも無理矢理ダッシュボードに取り付けられており、さらに小さなフラップがサイドウィンドーに備わるが、どんな速度でも十分な空気は入って来ない。そしてステアリングホイールだ。見ても触っても真剣なレーシングカー用そのものである。フラットボトムのステアリングホイールをしっかりと握り、コーナーで格闘することを考えれば安易な判断はできないはずだ。数字もそれを裏付ける。電子式速度計は220mphまで、レッドラインのないレブカウンターは7000rpmまで刻まれている。私たちが試乗した時点でオドメーターはわずか1362マイルだった。レースカー以外にありえない。 これはマクラーレンF1に匹敵するか?実用性という意味では否である。快適性は状況によるが、小型のヘッドセットが装備されていることを見逃してはいけない。この中で長い時間を過ごす耐久レーサーたちはまことに尊敬に値する。ジャガー・スポーツXJR-15は、より生々しく、たとえ低速でも身体的な努力を必要とする強烈な車である。 XJR-15はマクラーレンF1の先駆けと感じさせるものがある。かつても今も、これは常軌を逸したロードカーである。だが非常識はいいことだ。私はそんな常識外れが大好きだ。我々はもっと突拍子もないことを必要としているのである。 1991年ジャガー・スポーツXJR-15 エンジン:5933cc、60°V12、ザイテック電子制御燃料噴射 最高出力:450bhp/6250rpm 最大トルク:420lb-ft(569Nm)/4500rpm トランスミッション:5段 MT(または6段 MTノンシンクロ)後輪駆動 サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、プッシュロッド式横置きコイルスプリング、ビルシュタイン・ダンパー、スタビライザー サスペンション(後):ダブルウィッシュボーン、縦置きコイルスプリング、ビルシュタイン・ダンパー、スタビライザー ステアリング:ラック・ピニオン ブレーキ:ディスク APレーシング 4ポットキャリパー 車重:1050kg 性能:最高速 191mph(307km/h) 0-60mph加速 3.2秒 編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA Words:James Elliott Photography:Simon Kay Special thanks to CAR GRAPHIC
Octane Japan 編集部