【じつは禁書になっていた名作】『ふしぎの国のアリス』『青い鳥』『オズの魔法使い』は何がダメだったのか?
有名な童話『青い鳥』や『ふしぎの国のアリス』、『オズの魔法使い』がカトリック教会やアメリカの一部州、中国で禁書扱いされているのをご存じだろうか。どれも無害に見える作品だが、何がダメだったのだろうか? ■森鴎外の小説もアウトになった とある作品が有害指定を受けるかどうかは、「えらい人」の思い込みが大きく影響するようです。わが国では、明治42年(1909年)に発表された森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』――直訳すれば、「性的生活」という名の小説も発禁指定を受けたことが有名ですが、作品内に直接的な性描写はありません。 この当時、森鴎外こと森林太郎は陸軍軍医総監という職にありました。森の上官・石本新六には、「すべての軍医の頂点である軍医総監が『性的生活』などというタイトルの小説を書くなど許されない」という信念があったようです。 日本における有害指定のうち、一定以上の割合がこのように性的なテーマと関連している印象があるのですが、海外では、性的な仄めかしゼロの児童文学まで発禁処分を受けていることが多く、なかなかに目からウロコです。 ■『青い鳥』は「しゃべる動物」がキリスト教的にNGだった? たとえば、ベルギーの名家に生まれ、フランス語で数々の作品を発表したモーリス・メーテルリンクは1911年、49歳の時の作品『青い鳥』でノーベル文学賞を受賞しました。しかし、その後ですら、ローマ・カトリック教会から貼り付けられた「全著作が禁書指定の問題作家」という物騒なレッテルを剥がしてもらえませんでした。 『青い鳥』もオリジナルは「夢幻劇」、つまり戯曲形式で、子供向きの外見をまとってはいるのですが、亡くなった人のことを遺族が思い出している瞬間だけ、死者たちは目を覚まして活動することができるなどの設定が、『聖書』に定められた霊魂の扱いと異なっていることが問題視されたのかもしれません。 しかし、何を以て教皇庁指定の禁書にならなければならないかはわからず、すべては筆者の推測です。原典版も通読しましたが、犬や猫などの動物が人間の言葉をしゃべって、活躍する内容も、「動物に魂はない」と定義しているキリスト教的にはよろしくなかったのかもしれませんね。 ■『ふしぎの国のアリス』『オズの魔法使い』も禁書 イギリスの数学者/作家のルイス・キャロルによる童話『ふしぎの国のアリス』もまさにそういう理由で、1900年、アメリカ・ニューハンプシャー州の学校で採用することが保留――実質的な禁書となっています。アメリカは宗教観ではかなり保守的な国なんですね。 しかし同書は、1931年、無宗教を標榜する共産主義政権下の中国でも禁書扱いになっているので、宗教を超え、やばさを感じる作品という扱いになるようです。ルイス・キャロルは私生活ではロリコン風味でしたが、それが行間から感じられるのがまずかったのでしょうか……。 1900年にアメリカの児童文学作家ライマン・フランク・ボームが発表した『オズの魔法使い』も、1939年にはミュージカル映画化されて大人気を博した名作ですが、1957年になってから、デトロイトの図書館では「子供を臆病にする」「読ませる価値がない」などの理由で禁書扱いを受けています。 これは臆病なライオンのキャラクターに図書館組織の「えらい人」が激怒し、「子供の積極性を損ねる」と思い込んだことが影響しているようです。 文学では作家の奇行に注目が集まりがちですが、実際は宗教界や教育界の「えらい人」にも、なかなかこだわりが強すぎるケースが目立つようですね。
堀江宏樹