【骨になるまで・日本の火葬秘史】志村けんさんはひとり、コロナ禍の厳戒態勢の中で骨になった
遺族立ち会い不可は「人道的にどうなんだ」
高卒後、ドリフターズの付き人から始めて、『8時だョ!全員集合』(TBS系)に出演して人気者となった志村は、「バカ殿様」や「変なおじさん」を演じ、舞台演劇『志村魂』で座長を務めた日本を代表するコメディアンだった。 同時に、連続テレビ小説『エール』(NHK・2020年3月放送開始)で西洋音楽の作曲家を演じ、山田洋次監督の映画『キネマの神様』で初主演を務めることが発表されるなど、70才にして俳優として新境地を開きつつあった矢先の死だった。 突然の訃報に強い衝撃とやりきれなさを感じたファンは多く「最期ぐらい看取らせるべき」「お骨になっても感染するのか」といった批判が火葬場にも寄せられた。 志村の遺体を火葬した「落合斎場」は東京・新宿区上落合に位置する。火葬炉に入る棺を見送るための「炉前ホール」や、火葬された骨を骨壺に納める「収骨室」の面積別に3つのグレードの火葬炉を10基持つ大規模な斎場だ。 その落合斎場を運営する東京博善は、2020年3月11日から新型コロナで亡くなった人の遺体の受け入れを開始した。 当時を振り返るのは施設本部長としてコロナ対応にあたった川田明・元常務。2020年6月に退任し、現在、火葬コンサルタント「川田事務所」を経営する。 「あの頃はまだコロナが正体不明で、どうすれば安全か誰も言ってくれないときでした。しかし、もし火葬場内でクラスターが発生すれば火葬場を閉鎖することになる。そうした中で我々は最大限の対応、対策をしなければならなかった」 日本中が右往左往する中、コロナの火葬対応を始めるに伴い、まず定めたのは《遺体の受け入れ条件》だった。開始時間は一般の火葬より後にずらして午後4時。1日あたりの対応は2件。立ち会い会葬は業者を入れて5名まで。 しかしその後、ウイルスの正体がわからないまま感染者数が増えていく中、「火葬場クラスター」を避けるために遺族の立ち会いを完全に禁止せざるを得なくなった。 「一般の来場者のかたの安全管理はもちろん、職員の安全も大切です。そこで、『お別れは医療機関やそれに類するところで済ませて頂きたい。立ち会いはご遠慮する。それが(火葬の)受け入れの条件です』と葬儀社さんに申し上げた。そしてその『立ち会いお断り』をお伝えした対象者の中に志村さんがいて、マスコミを中心に『人道的にどうなんだ』と大きな批判が巻き起こりました」(川田・以下同) 厚生労働省はそうした世論をくみ取り、2020年3月下旬「遺体はウイルスが付着した血液や体液などを通さない非透過性の袋に納めることが望ましい」としつつ、遺族の意向に配慮し「極力そのままで火葬するよう努めてください」と葬祭業者に通達した。 「来場者や職員の安全を守ることと、遺族の意向に配慮することをどう両立させていくかは、コロナ禍において解決すべき重い課題となりました」