20年前の楓ちゃん誘拐殺人「伝え続ける」…定年迎える校長、校舎玄関にほほえむ写真掲げる
奈良市で2004年11月、小学1年の有山楓(かえで)さんが誘拐され、殺害された事件から17日で20年となる。当時、楓さんが通っていた市立富雄北小の教員で、現在校長を務める後藤誠司さん(61)は、楓さんの父親と交流があり、事件の風化を憂える気持ちに触れてきた。来年3月末に定年を迎えるが、「楓さんのこと、そして命の大切さを伝え続けていく」と誓う。(前川和弘) 【写真】学校内に設けられた楓さんをしのぶコーナー
後藤さんは事件当時、6年の担任だった。04年11月17日夕、校内で教頭から「楓さんが帰宅していない」と聞き、他の教員や保護者らと校区内を捜し回った。
翌18日午前3時半頃、学校から緊急招集がかかった。校長が、楓さんが殺されたことを告げると、空気が凍りついた。「むなしく、悲しかった。『守ることができたのではないか』と自分を責めた」
同時に恐怖も感じた。犯人は捕まっておらず、数時間後には児童が学校に来る。朝になると、教員らは校内や通学路に散らばり、保護者に付き添われて登校する児童を見守った。
その後も厳戒態勢は続いた。動揺する児童に対し、後藤さんは「学校は怖いところじゃない」と伝えるため、努めて明るく振る舞った。1か月半後に容疑者が逮捕され、学校は少しずつ落ち着きを取り戻していったという。
後藤さんは08年に異動したが、19年、同小に校長として戻った。
その年の11月に校内で開いた楓さんの追悼集会後、父親が訪ねてきた。娘との思い出や悲しみとともに、「楓を忘れられるのが怖い」と語った。後藤さんは「子どもたちや教員に楓ちゃんのことを伝え続ける」と心に決めた。
児童の目に触れやすい正面玄関近くに、楓さんがほほえむ写真などを掲示。事件当時の校長らとともに、「私たちも楓ちゃんのことを忘れない」との思いを込め、父親に鐘を贈った。毎年、命日に合わせて開く校内の追悼集会では、楓さんの優しい人柄や好きだったこと、命の大切さについて語り、父親から鐘を借りて鳴らしている。