農林中金の巨額損失、金利高止まり長期化への警告を世界に発信
(ブルームバーグ): 56兆円の資金を運用する国内最大規模の機関投資家である農林中央金庫。日本での金利が低く抑えられた時代に、海外資産に投資し、利回りに対する飽くなき欲求を持っているように見えた。
しかし、米国での金利高止まりが長期にわたる現在、米国債などの運用失敗により金融業界で最も大きな打撃を受けた1社となった。
農林中金は18日、購入時より時価が下がり、含み損を抱えた米国債など10兆円規模の外債を売却する方針を明らかにした。外貨調達コストが急上昇したことで、保有していても採算が合わなくなった。3月末時点で保有する債券全体の評価損益は2兆円超の含み損に膨らんでいた。
今期(2025年3月期)の連結純損益は1兆5000億円の赤字に膨らむ可能性があるという。5月22日の時点では5000億円超の赤字幅を見込んでいた。
農林中金には十分な自己資本があり、財務の健全性に懸念はないとの見解を同社や日本政府は示している。それでも1兆5000億円もの巨額赤字を計上する見通しを示したことは、米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻から15カ月経過した今でも金融システムに潜む危険性を思い起こさせる。
米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめとする中央銀行が利下げを急がないというシグナルを発し、市場では早期の利下げ観測が後退。農林中金のような機関投資家にとっては困難な状況に直面している。
農林中金は過去2年間上昇していた金利が低下(債券価格は上昇)することを見込み、米欧国債を積み増していた。巨額損失を招いた外債に偏ったポートフォリオを見直すため、保有する同国債の3分の1を売却し、ローン担保証券(CLO)や国内外の債券を含めた他の資産への入れ替えを進める方針だ。
農林中金の損失見通しについて、ロベコ・グループのアジア担当ソブリンストラテジスト、フィリップ・マクニコラス氏(シンガポール在勤)は「金利リスクをヘッジしなかったのは驚きだ」とした上で、「FRBや欧州中央銀行(ECB)の金利引き下げに対する確信が高く、当初は一時的な延期だと考えていたのかもしれない」と語った。