社会の排除に対抗「いっそのこと依存症当事者で映画を」 高知東生さんら演じる回復の物語、上映広がる
一方、ナカムラ監督がそうだったように、社会で依存症を理解できている人は少ない。4年間、当事者らへ取材し、依存症をテーマにしたネット配信ドラマを制作するほか、今回の映画を撮った。ナカムラ監督は「もしも依存症に陥っても終わりではなく、大丈夫なんだと伝えたい。一人でも回復につながってほしい」と願う。 ▽世界的スター巻き込み、厳しい視線も 映画情報が事前公開された今年3月、奇しくも依存症は社会の注目を集めていた。米大リーグ大谷翔平選手の元通訳のギャンブル依存症と、違法賭博問題が判明したからだ。 元通訳の水原一平被告は6月、米連邦地裁に出廷し、大谷選手の銀行口座から金を盗んで、賭博の胴元側に不正送金した罪を認めた。送金のため、選手を装って銀行に電話したとされる。 世界的なスーパースターを巻き込んだ依存症に対し、厳しいまなざしが注がれた。 ▽人格否定ではなく、病気への正しい理解と対応を
ギャンブル依存症問題を考える会の田中代表は、うそをついてお金の工面などをすることは依存症に典型的な症状だと説明する。その上で「必要なのは人格否定ではなく、適切な治療だ」と指摘する。 田中代表は「当事者バッシングや、逮捕された俳優の出演作品の放映中止など、排除の動きがあまりに強い。回復へ踏み出そうにも、相談すらしづらい」と話す。薬物などに手を伸ばしてしまった後もそれぞれの人生は続く。それなのに、社会から見えない存在へと追いやられ、やり直すことがなかなかできない社会の現状があると問題視する。国に対しては、自助グループや保健機関へつながりやすいよう啓発するよう求める。 映画制作の動機について「排除されるなら、もういっそのこと依存症者をまとめて出しちゃえと考えた」と話す。作中でゴスペルグループが寄り添い合って再起を期したように、映画自体が回復へと歩むプロセスの一部とも言える。こうした依存症者らによる創作は「リカバリーカルチャー」と呼ばれる。
田中代表は「依存症は家族をも分断させる残酷な病気だ。だからこそ、正しい対応の仕方を伝え、多くの人に理解をしてもらうことが大切だ」と話し、作品のメッセージが広まることを願っている。