社会の排除に対抗「いっそのこと依存症当事者で映画を」 高知東生さんら演じる回復の物語、上映広がる
「またお金借りるの?なんでまたうそつくの?」 「あなたたち、人生で1回も間違ったことないんですか。そんなことないですよね」 それぞれが一歩一歩進む回復の道を丁寧に描きつつ、決して平たんでも一直線でもないという現実を映し出している。 ▽誘惑は強まる一方、対策は脆弱 依存症は、特定の何かに心を奪われ、やめたくてもやめられない状態だ。厚生労働省によると、アルコールや薬物といった「物質への依存」やギャンブルなどにのめり込む「プロセスへの依存」に大別される。睡眠や食事がおろそかになり心身両面を害し、仕事や学校を休みがちになったり、お金の工面などのためうそをつき家族らとの関係が壊れたりする。 厚労省は「脳の病気」だとして、依存症者が自身の経験を語り合って互いに支える自助グループへの参加や、専門医療機関や精神保健福祉センターなどへの相談を呼びかける。 厚労省推計では、ギャンブル依存症の経験が疑われる人は300万人超で、アルコールでも100万人超に上る。ただ、実際に治療を受ける患者は一握りだという。
新型コロナウイルス禍を機にオンラインカジノの利用の広がりが指摘され、カジノを中心とする日本初の統合型リゾート施設(IR)計画も進む。誘惑が強まるのに対し、依存症対策は脆弱なのが現状だ。 ▽依存症の親族を憎んだ過去、病気が理由だと伝える映画撮影 ナカムラ監督は、過去に親族がギャンブル依存症を経験した。自宅を訪れ、ナカムラ監督の母親に金を無心する姿を何度も目撃した。「母はいつまたお金を求められるのかと恐怖にさいなまれていた。母をあんなに傷つけた親族のことを、私は最低だと思っていた」と打ち明ける。 転機は、今作のプロデューサーを務めた「公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会」(東京)代表の田中紀子さんとの出会いだった。田中代表による依存症者や家族への支援活動を通じ、「大変な病気を抱えていたんだ」「依存症は“普通の人”でもなってしまう脳の病気であり、回復できる」と知った。お金の工面や借金の肩代わりが本人のためにはならない―ということも。