イタリア人がよみがえらせた山裾の古民家、訪日客が続々 築350年の空き家、担い手探しに手間をかけた理由
築約350年の古民家に、ダマスクローズの香りが漂う。塩尻市洗馬、山裾の小さな川にかかった橋を渡った先に、2022年にオープンしたバラ園兼宿泊施設「LA TERRA Resort(ラ・テラ・リゾート)」はある。母屋部分は中信地区に多い「本棟造り」で、古い梁(はり)や柱を残しながら改修。イタリア出身のオーナー、ロシャン・シルバさん(48)の手により世界各国のアンティーク家具を配した空間は、独特の安らぎをもたらしている。 【写真】各国のアンティーク家具が置かれた室内の様子
この古民家は、元々は同市空き家バンクの登録物件。市が建物の歴史に注目し、家主の了承を得て活用の担い手を公募したところ、県内外から18組が内覧に訪れ、8組が応募。家主がそれぞれの利活用プランなどを見て選考し、全国各地でカフェや雑貨、洋服の店を手がけるシルバさんが譲渡先に選ばれた。
シルバさんの会社(東京)は物件を取得後、サウナやグランピング、バラの蒸留所を備えた施設に再生。今や米国やオーストラリア、シンガポールなど国内外から客が訪れ、静かだった山あいの地ににぎわいをもたらしている。
今回、所有者とのマッチングを企画したのが、市がバンクの運営を委託している第三セクター「しおじり街元気カンパニー(街カン)」。約8年前から、空き家バンクの登録物件で利活用案の公募方式を取り入れている。ウェブサイト上に物件を並べて買い手を募る通常の取引とは逆で、上伊那郡辰野町で取り組まれている「さかさま不動産」にも似た仕組み。これまでこの仕組みを通じて数件がカフェや宿泊施設に生まれ変わった。
わざわざ手間をかけてでも、このような手法を採るのには訳がある。特に古民家の所有者には、代々継いできた家への思い入れが強く、処分をためらう人が少なくない。
実際に、空き家の新しいオーナーが、取得したまま放置するケースはまれではなく、近所付き合いや地域への影響を考えると「ほったらかしにされて廃屋になり、近所に迷惑を掛けたら…」と心配する人も。譲渡先と顔の見える関係ができ、安心して託せる先が見つかれば、所有者の肩の荷も下りるというわけだ。