1990年代のステーションワゴンブームで人気を集めた3選
(2)日産「ステージア」(初代)
日産も、90年代はステーションワゴンのラインナップを拡充させていた。80年代に若い世代に人気が高かった「サニー・カリフォルニア」に続き、「マーチ」「ウイングロード」「アベニール」「プリメーラ」「アベニール」「セフィーロ」などにステーションワゴンが設定された。 日産はステーションワゴンを若い人向きの車種と割り切っていたようで、かつてのようにセドリック/グロリアにステーションワゴンを設定することはやめてしまっていた。 ステージアは、日産のラインナップにおいて、もっともおとなっぽいステーションワゴンといえた。中身はローレルとスカイラインである。R32型スカイラインにも搭載された2.5リッター直列6気筒ターボエンジン「RB25DET」を載せた後輪駆動で、メインは4輪駆動だった。 さらにR32型スカイラインGT-Rに匹敵するスペックスのオーテックバージョン「260RS」も、このステージアには設定されていた。280ps(当時、許されたマックスパワー)のRB26DETTエンジンに、4WDのアテーサE-TS、後輪操舵のスーパーHICAS、それにブレンボのブレーキというぐあい。見た目も迫力十分だった。 初代ステージアはボディのプロポーションもよく、高性能でプレステージもあるステーションワゴンというコンセプトがうまく昇華できていたように思う。欧米でもウケそうなコンセプトだった。 ただし、高性能が欲しければスカイラインがあるし、RV(レクリエーショナルビークル)が欲しければ、ほかにも選べる。市場のニッチ(すきま)を狙いすぎたのでは、というのが、ステージアの印象だった。いいんだけれどねぇ。
(3)ボルボ「850エステート」
日本のステーションワゴンブームの火付け役などと(一部で)言われるボルボの850エステート。ことの真偽はともかく、ボルボのイメージを若々しくリフレッシュした立役者として、記憶に残るモデルだ。 いまでも日本で人気の高い200シリーズに変わる新世代として850セダンが登場したのが91年。93年にボルボがエステートと呼ぶステーションワゴンが追加された。 200シリーズは後輪駆動だったが、850ではいきなり、エンジン横置きの前輪駆動へと変更。それにも驚いたが、従来「走行安定性の面で後輪駆動を採用している」と、言っていたボルボなのに、なんでいきなり前輪駆動なのか? というのも驚きだった。 エンジンは5気筒という変わった設計で、手がけたのはポルシェデザインだったという(同社はさまざまなメーカーのために技術を供与)。ボルボはなんでも70年代からこのクルマのプロジェクトに取り組んでいたとかで、850シリーズでは、レースにも積極的に参加した。 同時に、F1(ベネトンやアローズ)や世界耐久選手権(マツダやポルシェ)など、モータースポーツでの経験豊富なスコットランド出身のエンジニアリングディレクター、トム・ウォーキンショウ(TWR)と組み、T-5Rなる高性能モデルを開発。1994年にBTCC(英国ツーリングカー選手権)に参戦した。 セダンが常識だったレース界にステーションワゴンボディのレースカーという、ボルボの常識外れのチャレンジは大いに話題に。車体の重さと、基本が前輪駆動ゆえの前後のバランスの調整に、TWRのエンジニアは手を焼いた、と、私は当時、彼らのファクトリーで聞いたことがある。 いっぽう、ワゴンの前後長の長いルーフはダウンフォースを生むのに有効で、たとえばコーナリング能力が上がるなどメリットをもたらしたとボルボのホームページに記載がある。95年と96年はリカルド・リデルをドライバーに、連続して総合3位入賞と悪くない成績を残した。 いまでも時々、限定発売された850T-5Rを見かけることがある。根強いファンがいるのだ。中古車市場では600万円前後で取り引きされていて、人気が高い。
文・小川フミオ 編集・稲垣邦康(GQ)