【毎日書評】有給休暇は権利です。メンタル不調で動けなくなる前に正しく休みリセットするコツ
『産業医が教える 会社の休み方』(薮野淳也 著、中公新書ラクレ)によれば、ビジネスパーソンの8割以上が、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを抱えているのだそうです。 また、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上の休職、または退職をした労働者がいた事業所の割合は1割以上(令和5年「労働安全衛生調査」より)で、この割合は増加傾向にあるのだとか。企業側から見ても、メンタルヘルスによる「休職」は決して特殊なことではなくなってきているわけです。 そうした現状を鑑み、著者は次のようなメッセージを投げかけています。 言うまでもないですが──「休むこと」って大事です。そして、有給休暇は権利です。疲れたら、心身に負担を感じたら、正々堂々と休みましょう。 そして、「睡眠」も大事です。仕事のことが頭から離れずに眠れない、睡眠不足でパフォーマンスが低下している──。そんな状態になったなら、薬の力を借りるのも手です。まずは睡眠をとって、一度リセットしてみましょう。 それでも良くならないのなら、休職も良い方法です。(「はじめに」より) 「休職」と聞くと、キャリアに影響をおよぼすような“オオゴト”だと感じられるかもしれません。しかし、いまや休職は珍しいことではなくなっているようです。 事実、産業医である著者は、些細なことで体調を崩してしまう人だけでなく、少しばかりの休職と環境調整のおかげでまた元気に働いている人もたくさん見てきたのだといいます。 そこで本書においてはそうした実体験に基づき、「正しく、適切で、安全な」会社の休み方について“知っておくべきこと”を解説しているわけです。 きょうはそのなかから、第7章「心身を健康に保つ、本当に幸せな働き方」に焦点を当ててみたいと思います。
メンタル不調は誰にでも起こる
先日、ある企業で1年間の産業医業務のまとめを、人事の皆さんに報告しました。 メンタル不調の方の相談や休職面接についての統計を出し、既往歴の有無で分けてみたところ、圧倒的に既往歴のない人のほうが多数でした。つまり、メンタル不調に陥ったのは初めてという人がほとんどだったのです。 また、ストレスを抱えた理由もさまざまでした。過重労働や職場の人間関係、目標達成のプレッシャーといった仕事にまつわることだけではなく、家族の介護や病気など家庭の問題が関わっていることもありました。(198~199ページより) ここからわかるのは、メンタル不調は誰にでも起こりうるということ。著者自身もクリニックの開業当初、あまりの忙しさに眠れなくなり、食欲も落ちて体重が10キロ減って、適応障害になったことがあるそうです。 つまり、心が弱いからメンタル不調になるというわけではなく、さまざまなきっかけで誰しも心のバランスを崩す可能性はあるのです。しかし、メンタル不調で相談を受けた方の大半が既往歴なしということは、「正しく休めば、ずるずると引きずるわけではない」ということでもあります。 メンタル不調による休職は復職後の再発も多いようですが、それは“休み方の質”が悪かったから。ただ仕事を休むだけではなく、きちんと自分を整えて“不調に至った原因”をしっかり振り返り、さらには職場に働きかけて環境も整えれば、「また再発するかも」とビクビク過ごす必要はないということです。 メンタル不調は誰にとっても無縁ではないけれど、一度なったからといって、ずっと不調を抱えたまま生きていかなければならないわけではありません。(200ページより) いま、つらさを感じている方は、そのつらさがずっと続くわけではないということを忘れないでおくことも大切なのでしょう。(198ページより)