校正者は役目を終えたのか(3)ワープロ導入で持ち上がった「校閲不要論」
デジタル版にも校閲記者
朝日新聞のデジタル版「朝日新聞デジタル」(旧アサヒ・コム)は2015年に開設20周年を迎えた。全国紙のなかでも、インターネット黎明期からいち早くデジタル化に取り組んできたが、2012年に「アサヒ・コム」と「朝日新聞デジタル」をブランド統合して以降、独自の記事を配信するケースが増加した。2017年4月からは、デジタル版に校閲記者を置いた。それ以前は、記事を書いた記者とそのデスク、デジタル編集部の部員でチェックしていたのだという。 朝日新聞デジタルの校閲記者は、午前9時から午後5時、午後5時から翌午前1時のあいだ、それぞれ1人が日替わりで担当。朝日新聞デジタルが配信する記事のなかでも、おもに速報記事の校閲を行う。本数は、平日が20~30本、土日は多くても20本程度だが、日によって、それより多いこともある。校閲記者2人に加え、2018年4月からは、午前11時から午後8時までデジタル版専任のデスクを置いている。 紙の新聞の記事も、朝日新聞デジタルの記事も、プリントアウトしてから校閲するため、仕事の進め方に違いはない。ただ、デジタル版ならではのやっかいな問題もある。たとえば、機種依存文字だ。Windowsで表示できても、Macでは表示できないなど、ユーザーが使っている端末によって表示できない文字のことだ。新聞なら印刷可能でも、インターネットでは表示できるとは限らない。 たとえば、元SMAPの草なぎ剛さんの「なぎ」の字がそうだ。「なぎ(弓へんと、その右上に「前」のような文字、右下に「刀」が記された漢字)」と注記されているのを見たことがあるユーザーは多いだろう。
新聞業界の衰退「人が減るのは仕方ない」
新聞業界の衰退は大きな問題で、同社でも採用を抑制してきた。校閲記者は、1990年に12人を採用していたのに対し、2010年以降は年に1人程度にとどまっている。現在、東京に58人、大阪に22人の校閲記者がいる。それだけでは業務のすべては賄いきれないので、関連会社に業務の一部を委託している。 東センター長は「他部門も含め、人が減るのは仕方ない。ここだけ増やしてほしいという話は通らないので、今いる人間で新しい時代にどう対応するかが課題」と話す。今後は、紙の校閲記者の仕事を効率化することで、デジタルの校閲記者の数を増やしていきたいという。 校閲センターの人数は減る一方だが、デジタル版の仕事も加わって仕事の量自体は増えている。「はたらけど/はたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざり/ぢつと手を見る」。啄木ならこの状況をどう乗り切るのだろうか。 (取材・文:具志堅浩二)