両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.9
自分たちの教会
「長期的に見れば、それだけが原因ではないと分かってもらえるはずだが……直接のきっかけはそうだ。僧正がマナプロウに仏塔を建立したとき、KNLAの指導部は『白く塗るのは、セキュリティ上の懸念がある。仏塔は目立つので、ミャンマー軍に、我々の居場所を教えることになってしまう。だから、色を白く塗るのをやめるか、仏塔自体を解体してくれ』と言った。 これは明らかに、カレン族の多数を占める仏教徒への侮辱だ。第一にマナプロウの駐屯地は、すでにミャンマー軍に把握されていたから、そこに仏塔を建立したからといって、何かがバレる性質のものではない。つまり、セキュリティ上の問題など、実際にはなかったんだ。彼らは、立派な仏塔が『自分たちの教会』を脅かすことを嫌い、また、自分たちを支援する欧米人のキリスト教徒たちの機嫌を窺っただけだ。 だが、それよりも、何より私たちが絶望したのは、長らくKNLAを統率し、当時もカリスマだったボーミヤ大将が指導部に対して何の打開策も提案せず、ただ反対案に賛同したことだった」 ボーミヤ大将(故人/キリスト教徒)は、長らくKNLAの最高指導者として君臨したソウバウジーに次ぐカリスマとされる。 「もし、本当にKNLA指導部が仏教徒のカレン族に対して敬意をもっていたなら、ボーミヤにはいくらでも他のやり方があった。たとえば、問題視された場所の仏塔建立を取りやめる代わりに、別の大事な場所、KNLAにとっての大事な場所での建立を約束するとか。あるいは、キリスト教の従軍牧師に与えていた階級と並び立つように、還俗したお坊さんを従軍僧侶として扱うとか……彼らはミャインジーグー僧正が兵士にお守りを与えることにも好意的ではなかった。そんな状況のなかで、私たちはKNLA指導部の一部が『僧正を暗殺しようとしている』との情報を得た」 取材班も、その「噂」だけは何度も耳にしたが、いったい当時の指導部の誰が画策し、どんな計画で暗殺がおこなわれることになっていたのか。具体的な話は一度も聞いたことがなかった。それどころか、KNLAに批判的なビルマ族のジャーナリストでさえ、「あれは、ミャンマー軍情報部のディス・インフォメーション(敵を欺くための偽情報)だった」と言うのである。