江口のりこ、松岡茉優らが演じる、現実と理想の世界のワタシタチ
「iaku」の横山拓也の書き下ろしを、小山ゆうなが演出する話題作『ワタシタチはモノガタリ』が、9月8日、東京・PARCO劇場で開幕した。前日には公開ゲネプロ、及び初日前会見が行われ、横山、小山とともに、出演者の江口のりこ、松岡茉優、千葉雄大、松尾諭が登壇。その模様をレポートする。 【全ての写真】横山拓也の書き下ろしを小山ゆうなが演出する話題作『ワタシタチはモノガタリ』 肘森富子(ひじもりとみこ)と藤本徳人(ふじもとのりひと)は中学時代の同級生。徳人の転校を機に文通を始め、その後直接会うことはなかったが、富子は「30歳になってどっちも独身だったら結婚しよう」なんて冗談めいた一文を手紙に綴っていた。そして30歳になったある日。ふたりが15年ぶりに再会した場所は、徳人の結婚式場で……。 横山らしい巧みさと人間の愛おしさを併せ持った脚本に、小山が丁寧な演出を施すことで、キャストそれぞれの魅力が光る良作となった。江口が演じる富子は、中学時代から小説家を目指す女性。Webライターを生業にしつつ、かつて交わしていた徳人との手紙をもとに、理想の自分=ヒジリミコとイマジナリー彼氏=フジトリヒトの恋愛小説『これは愛である』をウェブ上に投稿している。興味深いのは、ミコとリヒトは確かに理想のふたりなのかもしれないが、富子が自分自身を卑下するような描写がないこと。イマジナリーの世界でリヒトに甘えることはあっても、現実の世界での富子は、ひとりの作家として自らの創作に自信を持ち凛と立っている人物。ラブコメディと謳ってはいるものの、安易な恋愛至上主義に陥ってはいない点で非常に好感がもてる。 手紙を通し、直接的ではないにしろ富子を奮起させ続けてきたのが徳人。徳人の文体に対する憧れや、長年励ましてきてくれた徳人の期待に応えたいという想いが、富子に『これは愛である』を書かせたひとつの原動力になっているのだろう。演じる松尾は江口と同じ兵庫県出身。それだけに現代パートで発せられる、ふたりの関西弁はさすがの息の合いよう。どこかに恋を感じる瞬間はあったのかもしれないが、それ以上の強い繋がりを、ふたりの丁々発止のやり取りから感じられた。 ミコとリヒトを演じるのは松岡と千葉。イマジナリーの世界の住人らしい、あえて誇張された芝居が笑いを誘う。特にあざとい可愛さを生かした千葉のリヒトは、まさにハマり役と言える。実は松岡は俳優の川上丁子、千葉は現代アーティストのウンピョウというもうひと役も演じているのだが、イマジナリー側とのギャップが面白く、と同時に効果的でもある。 印象的なセット(美術:乘峯雅寛)は、物語を示す“『』”を表しているのだろう。場面転換を素早く行えると同時に、役者がその中に入り込むことで、それが物語の世界であることを視覚的にも認識させる。また共演陣には、入野自由、富山えり子、尾方宣久、橋爪未萠里とこちらも巧者ぞろい。中でも横山作品常連の橋爪は、小学生から40歳までを見事違和感なく演じてみせた。 キャストから観客へのメッセージは以下の通り。「大人だけじゃなく、子供にも観てもらいたい作品です。そして『劇場で芝居を観るって楽しいな』と思ってもらえたら嬉しいです」(江口)。「この作品には根っからの悪人みたいな人はひとりも出てきません。私も稽古中ずっとポジティブな気持ちで過ごせたので、劇場に来てくださるお客様にも、そんな暖かい気持ちで帰っていただけるように努めたいです」(松岡)。「脚本を初めて読んだ時と今とでは、抱いた印象がどんどん変わっていきました。だからたくさんの方に観ていただき、感想を聞かせてもらいたいなと思います」(千葉)。「思春期を過ごした人なら、誰でも思い当たるようなエピソードがたくさん散りばめられています。若い方はもちろん、お年を召された方にもキュンとしてもらえると思います」(松尾)。 取材・文:野上瑠美子 <公演情報> PARCO PRODUCE 2024 『ワタシタチはモノガタリ』 作:横山拓也 演出:小山ゆうな 出演:江口のりこ 松岡茉優 千葉雄大/ 入野自由 富山えり子 尾方宣久 橋爪未萠里/松尾諭 【東京公演】 2024年9月8日(日)~9月30日(月) 会場:PARCO劇場 【福岡公演】 2024年10月5日(土)・6日(日) 会場:キャナルシティ劇場 【大阪公演】 2024年10月11日(金)~10月14日(月・祝) 会場:森ノ宮ピロティホール 【新潟公演】 2024年10月18日(金)~10月19日(土) 会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場