読まれていないに等しい全国紙 沖縄特有の新聞事情とは
自民党の「文化芸術懇話会」では講師として招かれた作家の百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」と発言し、波紋を広げている。ほとんどの都道府県には地元の新聞と全国紙があるものの、沖縄県ほど全国紙が読まれていない県は珍しい。いったいどういうことなのか? そもそも沖縄県は、本土と地続きではなく、1972年まで日本に復帰していなかったという特有の事情は無関係ではないのだが、沖縄の新聞事情を見てみよう。
複数の新聞がある沖縄
沖縄の県紙には「沖縄タイムス」と「琉球新報」がある。「沖縄タイムス」は1948年創刊。もう一方の「琉球新報」は、戦前に同名の新聞があったものの、1945年の沖縄戦のなか消滅した。今の「琉球新報」は、「うるま新報」として創刊された新聞が1951年にいまの題字を名乗るようになったものだ。どちらも現在では反戦・平和を訴える論調で知られるようになっている。ちなみに、復帰前の1968年に保守系県紙「沖縄時報」が創刊されたものの、2年もしないうちに廃刊している。 沖縄県にはローカル紙が多い。宮古島市には「宮古毎日新聞」「宮古新報」があり、石垣市には「八重山毎日新聞」「八重山日報」がある。「八重山日報」は仲新城誠編集長を中心に保守的な紙面づくりをしているが、「八重山毎日新聞」よりも部数が少ない。 県紙があるのに、なぜ離島にも新聞があるのか? 離島では「琉球新報」「沖縄タイムス」が那覇空港から空輸されるため、早朝自宅に配達されることはない。だから、地元の新聞が読まれているのだ。
沖縄では全国紙は読めないのか
沖縄本島では、ほとんどの人が地元の新聞を読んでいる。日本ABC協会「新聞発行社レポート」によると、2014年上半期では「琉球新報」が16万3475部、「沖縄タイムス」が16万625部である。 一方、全国紙はほとんど読まれていないに等しい。最も部数が多い「日本経済新聞」でさえ5794部。一般紙では「朝日新聞」が1105部で最も多く、「読売新聞」の795部、「産経新聞」285部、「毎日新聞」280部が続く。 これらの全国紙は、沖縄県で全国紙を扱う「本土新聞」という会社が届けている。同社によると、朝10時ころに那覇空港に飛行機で新聞が到着し、11時ころに同社の販売所に届くという。配達は昼すぎから開始される。つまり、沖縄県では、全国紙は朝に読むことができない。 沖縄県の「反戦・反基地」に対して厳しい論調の「産経新聞」は、「本土新聞」も扱っていない。「有限会社テナント」という会社が扱っていて、「本土新聞」と同様に飛行機で到着し、昼過ぎから夕方にかけて配達するという。沖縄で「産経新聞」を読みたいという人は、東京本社販売局お客様センターに問い合わせれば連絡先を教えてもらえる。 なお、2008年から「日本経済新聞」は琉球新報社が委託印刷を開始。同社の販売店網により毎朝配達される。九州経済の情報と組み合わせた「沖縄・九州経済」という地域面があるが、沖縄の情報は少ない。 ちなみに、スポーツ紙に関しては、沖縄タイムス社と琉球新報社が取り扱っている。両者はスポーツ紙と提携し、沖縄タイムス社が「日刊スポーツ」沖縄版を、琉球新報社が「新報スポニチ」を印刷し、朝に配達されている。ただし、本土のスポーツ紙より薄い。 (ライター・小林拓矢)