温泉旅館が25年間でほぼ半減「泊食分離」絶品料理でニッポンの危機を救う!
今回のテーマは、「守れるか ニッポンの温泉旅館」。 日本の温泉旅館が危機に瀕している。1990年代以降は減少傾向にあり、25年間でほぼ半減。2020年、観光庁が公表した資料では、全体の3割の旅館が赤字で、借入金の返済も困難な「衰退旅館群」とされる。背景にあるのが少子高齢化と人口減少で、経営者の多くが高齢化し、事業承継の問題を抱えていた。 日本の温泉文化を支えてきた古き良き旅館…さまざまな人間模様を番組のカメラが追った。 【動画】「千と千尋の神隠し」の舞台ともいわれる温泉地の新たな取り組み
待ったなし…老夫婦が営む秘境の宿
春の風物詩「鯉のぼり祭り」やユネスコに登録された鍋ヶ滝で知られる熊本・小国町。 人里離れた山あいに、温泉旅館「山林閣」(1泊2食付き、1人1万8400円~)がある。 自慢の一つは、二段になった滝が目の前を流れ落ちる露天風呂など、4つもある源泉かけ流しの風呂。白濁した硫黄泉で、湯の花も豊富な名湯だ。
もう一つの自慢は、九州の山奥で味わう本格的なカニ料理。かつて主人が大阪の「かに道楽本店」で料理人をしていた伝手で、上質なカニを仕入れることができる。
そんな人気の宿を一代で作り上げたのが、秋吉美延さん(89)。この土地にほれ込んだ秋吉さんは、30年ほど前に自ら温泉を掘り当て、1995年、約2億円をかけて開業した。 以来、知る人ぞ知る温泉宿になり、夫婦で切り盛りしてきたが、数年前に心臓の大きな手術をした秋吉さん、もはや体力は限界にきていた。 去年4月、「山林閣」に、全国の旅館やホテルの不動産を専門に扱う仲介業者・辻勇自さん(※辻の字は一点しんにょう)がやって来た。取り出したのは不動産売渡承諾書で、旅館の売買価格は、温泉権、営業権、のれん代込みで2億5000万円。辻さんは「相場的に高くはない」と話すが、秋吉さんは「もう90歳になるので、私たちにはもうできないから売ろうと思う」と決断する。 秋吉さんには息子や娘もいたが、妻で女将のキヨ子さん(85)は、「長年やってきたから寂しくなる。本当は継いでもらうのがうれしかったが、無理だった」と話す。辻さんの元には、後継ぎのいない宿からの依頼が多くなっているという。 秋吉さんは承諾書に印鑑を押したが、あれから10カ月…いまだに買い手は決まっていない。