キューバ国民は米国との国交正常化を歓迎しているの?
◆なぜアメリカとの国交正常化交渉が始まったの?
現在のトップは、フィデル・カストロの弟ラウルです。ラウルの社会主義思想の血液濃度は兄フィデルより高いといわれます。しかしラウルは、「革命の父」フィデルではありません。カリスマ性に欠ける“親戚のおじさん”は、革命の「理念」だけで国を束ねることはできないと自制したのでしょう。国民生活の向上を最優先課題に掲げ、自営業種の拡大、不動産売買の解禁、公務員のレイオフなど、大胆な経済改革を進めてきました。 こうした政策によって、経済活動は活発になっています。しかし、モノ不足や食料品不足は解消されていません。アメリカの経済制裁という大きな壁が立ちはだかっているからです。国交回復が実現すれば、その障壁は取り除かれるでしょう。アメリカからの投資・輸入品・観光客が国民生活を一気に押し上げてくれる、と期待されているのです。 一方、オバマ大統領もレイムダックの状態にあります。多くの識者は「外交で成果を上げ、歴史に名を残したいのだろう」と分析しています。その真偽はともかく、(1)新たな市場を求める米産業界の要請、(2)キューバ進出が著しい中国への対抗、(3)米国のキューバ経済制裁に対する国際社会の反発、(4)ロシアや反米色を強めるベネズエラ等への牽制、(5)在米キューバ移民の反カストロ感情の希薄化、などが背景にあるのは確かでしょう。
◆キューバ国民は国交正常化を歓迎しているの?
おおむね「いいね!」という反応です。半径3メートルの経済、つまり暮らしの改善を一番強く望んでいるからです。それ以上に、オバマ支持の声が多いことに驚かされました。ブッシュの名を出すとみな顔をしかめますが、オバマの名を出すと笑顔を返してきます。キューバに手を差し伸べてくれたということだけでなく、「国民皆保険制度(オバマケア)」などを進めたオバマの姿勢に、キューバ革命の根底にあった「ある種のヒューマニズム」を見てとっているように思えます。キューバ国民を対象とした米機関のアンケート調査でも、オバマを評価する声は80%だったようです(4月8日米紙ワシントン・ポスト電子版)。 ただし、地方を歩くと「暴力国家アメリカとは距離を置いた方がいい」(30代男性・英会話教師)、「良いことだけとは限らない」(50代男性・運転手)という冷静な意見が聞かれました。首都ハバナ在住の日本人(40代女性)も「キューバ人のアメリカへの警戒心は並々ならないものがある」といいます。当然のことですが、オバマと合衆国をイコールのものと見ている人は皆無です。国交正常化に歓迎の声は多いものの、ニュース報道が伝えるほど、はしゃいでいるわけでも、もろ手を挙げているわけでもありませんでした。 むしろ焦っているのはアメリカ側かもしれません。世論は全体に好意的なようですが、連邦議会は国交正常化に慎重な共和党議員が多数を占めています。オバマの任期はあと1年半余りです。対して、これまで何度も苦境を乗り越えてきたキューバ人は辛抱強い。賢明かつしたたかで、「忍耐」を平等の「理念」が下支えしています。政府も国民も、長いスパンで、得られるものの価値を値踏みしているように感じられます。 (フリー編集者・大迫秀樹)