<一冊一会>超高級老人ホーム、ADHD…社会を照らす5冊
肌寒くなってきて、やっと衣替えをし始めているころでしょうか。読書の秋に、じっくり読むことができる本をセレクトしました。 【画像】<一冊一会>超高級老人ホーム、ADHD…社会を照らす5冊
「新しい戦前」の時代に考える
先の戦争の始まりと終わりを検証すると共に、戦時下におけるメディアの役割、テロリズムの台頭などを振り返る。戦争の始め方も、終わり方も、自らに都合の良い解釈で進めていく軍部など政治的指導者の態度は、現在にも続く、日本人に巣食う宿痾のように思えてならない。「生等もとより生還を期せず」。学徒出陣で答辞を述べた東京帝国大学の学生だった江橋慎四郎氏に当時を振り返ったインタビューなど、これまで著者が行ってきたオーラルヒストリーも充実している。
記憶を掘り起こす
「私が好んで歩いてきたのは、アイヌの人々の歴史であったり、東北の蝦夷、江戸時代の大飢饉の記憶、悪所と呼ばれた色街、明治時代に海を渡った日本人の娼婦からゆきさん、歴史的に弾圧されてきたキリシタンなど、どちらかというと、由緒正しきものではなく、悲劇や血に彩られた哀しい歴史であった」─。ノンフィクション作家であり、カメラマンの筆者はこう述べ、日本史からは忘れられた19カ所の現場を訪ねる。かつての日本人は良くも悪くもグローバルだったのだ。
令和の熊文学
熊文学と言えば、吉村昭の『羆嵐』(新潮文庫)が思い当たる。「妊婦ばかりを狙う羆」。思い出すたびに背筋が凍る恐ろしさを感じるが、本書もそれに劣らぬものがある。熊という圧倒的な自然を前にして人間は銃がなくてはひとたまりもない。いや、銃があっても危うい。日露戦争前という時代背景の中で、だからこそ、そうした自然を前にして人間は、もっと謙虚であるべきだということを改めて思い知らされる。と、同時に恐ろしさは、自然だけではなく、人間にも宿っている。それを「ともぐい」という形で表現したのが本書だ。人間もまた自然の一部なのである。
高級老人ホームはユートピアか?
老後はどこに住むことになるのか……。超高齢社会を迎える今、誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。数ある老人ホームの中には、入居一時金が4億円を超える「超高級老人ホーム」が存在する。謎のベールに包まれた富裕層の終の棲家は、入居者が悠々自適に過ごせる施設から、広告内容と実情がかけ離れた悪徳施設まで様々だ。元『週刊文春』記者が約1年かけて取材し、都内から福岡まで多数の施設の実態に迫ったノンフィクション。
一人のADHDの世界
「頻繁に長時間眠る」「かばんの中身を放置し続ける」など、注意欠如・多動症(ADHD)と診断された著者が、その断片を描く。処方された薬を飲み、36年ぶりに「目が覚めている!」と感じたことから、プール後にクラスメイトが居眠りする高校の教室を思い出すなど、ときには社会に疑問を持ちながら、静かに日常が語られていく。「言語化すればこぼれ落ちるものがある」と記すように、著者の感覚はADHDの一つの側面で、個人によって異なることを忘れてはならない。
WEDGE編集部