「同じことが絶対に起きてはならない」弁護士の心に残った裁判 最高裁大法廷が全員一致で違憲を認めた『旧優生保護法』
『週刊ポスト』誌上で読者のさまざまな“法律のお悩み”に解答してきた竹下正己弁護士。2024年はどの裁判に関心を持ったのか。竹下弁護士に聞いた。
【質問】 今年も暮れようとしています。2024年、日本では自民党の過半数割れやアメリカでのトランプ政権の復活が印象的でした。また、闇バイトによる強盗事件の多発など、暗い事件が多かったように思います。そこで竹下弁護士にお聞きしますが、この1年で心に残った裁判がありましたら、教えてください。 【回答】 心に残ったのは、7月に最高裁大法廷が、全員一致で違憲を認めた『旧優生保護法』です。 この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する等の目的で、遺伝性のある精神疾患や難聴などの身体疾患のある人について「生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術」である優生手術を、本人と配偶者の原則同意で認めつつ、同意がなくても、医師が公益上の必要を認めたときは、都道府県の優生保護審査会に優生手術の適否の審査を申請し、手術適正との決定が確定すれば、国の費用で優生手術ができるとしていました。 平成8年の法律改正で、優生手術に関する規定が削除、法律名称も『母体保護法』に変わっています。判決によれば、それまでに2万5000人もの人が優生手術を受けたといいます。この法律は、特定の障害等を有する人が不良であり、そのような人の出生を防止せんとするもので、個人の尊厳と人格を無視しているといわざるを得ず、誠に不当でしかありません。
憲法13条は、国民が個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求に関する権利の尊重も国に求めていますから、明らかな憲法違反です。また、障害者を差別することは、法の下の平等を定めた憲法14条にも違反しています。 驚くのは昭和23年に、この法律が衆参両院の全議員の賛成で成立し、その後、50年近く維持され、さらに法改正後も国連の人権規約委員会から被害者の補償体制がないことを批判されるまで放置されていたこと。終戦直後の貧しく、急激に人口が増加していた時代背景もあり、同一視はできませんが、ナチスの『断種法』と同じことを戦後の日本が行なっていたのを知り、不勉強を恥じ入りました。 将来、同じことが絶対に起きないよう注意しなくてはなりません。 【プロフィール】 竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。 ※週刊ポスト2025年1月3・10日号
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