小倉智昭「吃音があったから養われた」今明かす『とくダネ!』オープニングの裏側とは。古市憲寿が聞く〈テレビの本音〉
◆話すことを瞬間的に文章化している ──それってトレーニングでできるようになったんですか。個人のセンスに負うところが大きいのかなって感じもします。 やっぱり吃音があったから、話す言葉を頭の中で事前に決めておくほうが話しやすかったっていうのはある。そのおかげで脳内で素早く整理して文章化する癖ができたというか。 吃音だと、とっさに言葉は出てこないんですよ。何か言い返そうとしても、必ずつかえてしまったりとか、口ごもってしまったりする。 自分は何て言い返すべきなのかといったことは常に頭の中で考えていた。そうすれば言い返しやすいじゃないですか。その積み重ねみたいなところがあって。だからスポーツ実況、競馬の中継でも僕は瞬間的に作文しながらしゃべってたんです。 ──子供の頃から吃音の影響で、言葉をいったん塞(せ)き止めてから脳内で文章化していたことが後になって役立ったということでしょうか。 そうかもわからない。まあ加えて本を読むのが好きだったから、それで養われたのか。意識して身につけたスキルではないので、自分自身ではわからないんですね。
◆しっかり原稿を用意しない理由 ──面白いですね。普通はきちんと準備して原稿も用意するのが正しいと言われそうなのに、むしろ小倉さんはそうではない、と。 書いちゃうと、それに引きずられるんです。 加えてキャスターの場合は、目線の問題があります。テレビを見ている人は、ものすごくキャスターの目線が気になるものなんだよね。原稿やカンペに目をやると、そこに視聴者も気をとられてしまう。 まあ僕だって目が落ち着いてきたのって、「とくダネ!」やって何年かしてからですよ。それまでは落ち着きのない人で、一点をじっと見てられないんだよね。カメラのレンズの見方というのは難しいもんで、レンズを凝視するとものすごく顔がきつくなるんですよ。 だから基本はレンズの下を漠然とぼわっと見るぐらいの感じじゃないと駄目。 いま生きているカメラにはタリー(ライト)が付くでしょ。そのカメラを見ながら喋る必要があるので、当然、タリーを意識しながら僕ら見ていくわけじゃないですか。だからといって急にタリーのほうを向くと、もう目線が飛んでしまうのが分かるんだよね。これも視聴者は落ち着かない。 だから舐め回すような感じで目線を動かして、カメラを見るようにしないと駄目。 カンペが出てるときも、そっちばっかり見てると絶対、目の動きで分かってしまう。 実はそういうことに慣れてきたのは50歳過ぎてからだったよね。 ※本稿は、『本音』(新潮社)の一部を再編集したものです
小倉智昭,古市憲寿