『伝説巨神イデオン』「全員死亡」の衝撃EDに制作スタッフも仰天? 富野監督の想いは
衝撃エンディングに込められた想い
『ガンダム』の富野由悠季監督のもうひとつの代表作といえば『伝説巨神イデオン』でしょう。1980年終了の『ガンダム』の次に富野監督が手がけた、異星文明と地球人の出会いと破滅を描いたSF巨編は、登場人物全員が死亡するという衝撃のラストで、TV放映、その後の劇場版ともに、ファンの間でいまも物議を呼んでいます。 【画像】えっ、素っ裸に!? こちらが衝撃EDで描かれた『イデオン』メインキャラです(3枚) 激しい戦いの末、主人公側である地球人も敵側の異星人も、全員が悲惨な死を迎えるのですが、彼らはみな、「イデ」という人知を越えた巨大なパワーで、作品世界では「因果地平」と呼ぶ別の世界へと転移。そこでの彼らは穏やかな笑みを浮かべながら、愛し合った者同士は手を取り合い、一糸まとわぬ姿で飛翔してゆきます。 この「因果地平」がなんなのか、作品内では説明がなく、不思議な宇宙空間のような表現で、受け取り方は視聴者に任されています。 ケースバイケースではありますが、基本が分業のTVアニメの制作現場の多くは、スタッフ全員が物語のことを全て知っているわけではありませんから、この衝撃的なラストには、放送を観た私も含めて関係者もみな仰天。特に、男女ともに「丸裸」だったシーンには、後に下半身部分にボカシ処理が入れられることにまでなりました。 もっとも、当時はまだまだアニメは子供のものという認識が強かった時代です。配給側の気遣いも無理からぬことではありましょう。 この驚きの最後がなぜ生まれたかについては、富野監督自身が自著等で語られていますから、ご興味がある方は是非探してみてください。 ただ『ガンダム』もそうですが、富野監督の描く戦いの世界は、常に悲壮感に包まれています。それは、第二次世界大戦で行われた凄惨な戦いの現実を、特に監督の世代は身をもって知っているからでもあります。 人と人が殺し合う「戦争」というものがいかに悲惨で、愚かな行為であるか、それを実体験していたからこそ、すでに戦争を知らない世代だった視聴者に知ってほしい、そして二度と繰り返さないようにというメッセージが、たとえ創作の世界といえども忘れてはならないこととして、特に1980年代あたりまでの作品の根底には、必ずあるのです。 だからこそ、エンディングの歌詞の中にある「祈りを今君のもとへ」は、この世代の日本の人々すべての想いのように、私には思えます。 エンターティメントの中にも込められた先人たちの平和への想い。自分の明日のためにも改めて見直してみるのはいかがでしょう。 【著者プロフィール】 風間洋(河原よしえ) 1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。 2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。
風間洋(河原よしえ)