石破氏の「アジア版NATO」構想はポエムに過ぎない、ASEAN首脳会議で失笑買う恐れ
そのフィリピンとてドゥテルテ前政権当時は中国寄りの姿勢を示していた。政権が変われば、対中政策も変わりうる。「西側諸国が抑止するため」という論理展開には最初から「アジア」が欠落している。 石破氏が寄稿のなかで挙げたアジアの国はフィリピンとインド、韓国の3カ国に過ぎない。台湾有事や中国の脅威、ロシアと北朝鮮の結託などについては危機感を表明しているものの、南シナ海の紛争勃発の危険性やインドと中国の領土紛争については触れていない。
南シナ海は、中国の公船がフィリピンの艦船に体当たりを繰り返し、負傷者も出る「いまそこにある危機」だ。一触即発の事態が続き、切迫性という点では、台湾有事や北朝鮮の核・ミサイル開発を上回る状況だ。フィリピンと相互防衛条約を結ぶ同盟国アメリカにとっても看過できない事態となっている。 アジア版NATOが創設され、石破氏が言うようにフィリピンとインドが参加したとして、南シナ海や中印国境紛争で日本が当事者として集団的自衛権を発動して参戦する覚悟はあるのだろうか。
■安倍首相の「対ASEAN5原則」の二の舞か 石破氏は初の外遊として10月10、11の両日、ラオスで開かれるASEAN首脳会議に出席する意向を9月29日のNHKの番組で示した。その場でアジア版NATO構想について説明するのだろうか。残念ながら、真剣に検討の対象として取り合う首脳はいないだろう。 石破氏の仇敵、安倍晋三元首相は2013年1月、第二次政権発足後初の外遊に東南アジアを選び、対ASEAN外交5原則を発表した。
自由、民主主義、基本的人権、法の支配など普遍的価値の実現をうたったが、その後に起きたタイのクーデターやカンボジアの野党弾圧などについて民主主義や人権、法の支配の観点から大きな声を上げることもなく、この原則を語る日本政府関係者もいつしかいなくなった。ASEAN内でも記憶にとどめる人はほとんどいない。 アジア版NATO構想も安倍5原則に続く掛け声倒れの二の舞になる可能性は大きい。
柴田 直治 :ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表