明日開幕のエアレースで連覇を狙う室屋義秀「ベストを尽くせばドラマが」
V2条件は揃っているが室屋は優勝宣言などしない。これは彼の哲学である。 「勝つか、負けるか、は時の運。優勝は目標であり、そこを目指しつつも、そこを追いすぎない。チームに優勝できる能力がなければ、イチかバチかの一発勝負でとなるだろうが。今はチームにファイナル4に残れるポテンシャルがある」 レッドブル・エアレースは予選、決勝の2日間に分かれ、1対1の勝ち抜きトーナメント戦で最後に残った4機でタイムを競う。「ファイナル4」とは、その最後のベスト4の争いのクライマックスのこと。サンディエゴ大会では、新鋭のピーター・ポドランセックが、勝負をかけたスーパーフライトで好タイムを弾きだし2位に入った。だが、現状の室屋には、もう失格を覚悟するほどのリスキーなフライトを仕掛けずとも、ファイナル4に残ることのできる力が備わっているというのである。 だから、ライバルは「自分自身だ」と言う。 「自分をどうコントロールするか、そこが勝負」 母国。しかも、連覇。そのコントロールを邪魔するプレッシャーはある。しかし、室屋は「プレッシャーと取るか、応援と取るか、それは自分次第。僕は、それを声援をいただいていると思っている。去年は、それを実証した。さらに今年も力を貰ってベストを尽くせばなんかしらのドラマが生まれる」と語った。 刺激もあった。全米で人気と伝統のあるモーターレース「インディ500」で日本人として史上初めて佐藤琢磨が優勝した。 「あれいいですね。僕は牛乳よりもシャンパンのほうがいいかな(笑)」 佐藤琢磨が優勝後に牛乳シャワーを浴びたシーンを引き合いに出した。 「大変なこと。(インディ500を)知らない人は知らないだろうけれど、国をあげての報道も含めて知らされたはず。そこで(彼は)長い時間、頑張ってきた。そしてドラマが生まれた。それを人々は見てて面白いと感じるだろうし僕なんかも面白いと思う。刺激? そうですね。最終戦があそこなのでね」 全世界を1年かけて8大会転戦するレッドブル・エアレースの最終戦は、10月14、15日のアメリカ・インディアナポリス大会。ワールドチャンピオンシップの優勝を目標に掲げる室屋にとって、その目的の地で同じく日本人が世界の頂点に立った快挙は、強く心に刻まれた。 2017年の千葉幕張の空から侍パイロットは何を我々に伝えてくれるのだろうか。 「ないっす」 室屋は、そう言って問答を笑いに変えた。 「メッセージを伝えるのではなく、僕の仕事は飛ぶこと。そこで世界一を取るための努力をしている。我々は、そのための努力とエネルギーを燃やし続けるノウハウを持っているが、人間としての能力は、何も変わらない。自分の中にあるパワー、情熱をどう燃やすかをわからない人がいるかもしれないが、我々は可燃性だ(笑)。(それを見てもらって)どういう刺激があるか、何か役に立つものがあればいいが、逆に皆さんから力をもらって燃え続けられている」 明日3日から、まず4日の決勝での組み合わせを決める重要な予選ラウンドが始まる。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)