東大発医療スタートアップ「Provigate」関水康伸CEOインタビュー(上):世界で100兆円「糖尿病医療費」を抑制する「行動変容」の力
アメリカで糖尿病治療は50兆円市場
――今後はアメリカ進出も見据えているとのことですが、日本発のスタートアップは世界で成功できるでしょうか? 医療機器や医薬品の開発は、「ビジネス」というより「プロジェクト」の要素が強い。「うまくいくかどうかわからないけど、できたらすごいよね」というアイディアに人が集まってチャンスにかける点で、そもそもスタートアップ企業と親和性があります。 「理論的には多分できそうだけど実現に10年はかかる」といったアイディアに、普通のビジネスの感覚ではなかなか手を出さないわけです。だけど、それをやろうと思う酔狂な人たちが集まってプロジェクトを立ち上げる。私たちの取り組む糖尿病でいえば、「安くて、痛くなくて、誰でも簡単に使える、わかりやすい血糖計があったらいいよね」というアイディアがまず中心にあって、その周りに人が集まっています。 そのときの立場は、リスクとリターンの観点から、みんな平等です。私のような起業家もいれば、開発メンバー、サンプルを提供して下さるボランティアのみなさん、協力して下さるお医者さんもいる。プロジェクトへの関わり方は人ぞれぞれで、自分の人生丸ごとかけている人もいれば、できる範囲で部分的に関わっているスペシャリストもたくさんいます。投資家はお金というリソースをかけているわけですし、行政も公的な立場からサポートしてくれる。でも結果的に開発できなかったら何も残らない。みんながそのリスクをわかった上で、自分がかけられるものをフェアにかけていく。フェアネスはスタートアップの本来あるべき姿です。 こういう仕組みを長年、大規模にやってきたのがアメリカという国です。アメリカはリスクマネーの供給量が圧倒的に大きく、ベンチャーキャピタル(VC)だけで2021年には2000億ドルを超えています。かたや日本におけるスタートアップ投資は全体でも1兆円ぐらいしかない。だから、同じアイディアに同じくらいやる気のある人が集まっても、お金の部分で参加する人が圧倒的に少ないので、最終的には資金力の差で負けてしまうことになる。 よく会社は株主のものだとか、投資家は利益を出してナンボなどと言われますけど、特に医療系のスタートアップにおいては、集まったメンバーは基本的に対等です。開発者も投資家も、それぞれの役割が違うだけ。ですが、全体のバランスという点で、やはり日本の場合は投資家の参加、リスクマネーの供給量が足りていない。それ以外のアイディアや人材は十分に世界レベルです。 弊社の場合、国の助成金を上手に使いながら、VCや民間企業からもお金を集めてきて、それらをうまく合わせて何とかここまで来たという感じです。 それでも世界で戦うには全然足りていないので、次のフェーズは海外、特にアメリカに打って出て、さらなる事業展開に必要な資金やデータを集めていくつもりです。ここから先のフェーズに移るには、海外での資金調達は必須です。海外の方がチャンスも大きいですしね。例えば、さきほども述べた通り、日本の医療費が全体で45兆円規模なのに対して、アメリカの医療費は糖尿病関連だけでも4000億ドルを超えています。それほど巨大なマーケットなので、やはりお金も人もどんどん集まる。そういった市場で勝負しないと、本当に世界で使われる商品にはならないと思っています。 (つづく)
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