客席が見えないほどの涙に、有名な「ミソラ事件」も…『紅白』を花道に「引退・休業した歌手たち」とは
嵐、安室奈美恵、山口百恵…
グループとしての活動を休止するため、嵐が”最後”の『紅白』に出場したのは令和2(’20)年。また大みそかで産休に入ったため、この舞台が彼女の姿の見納めになるか?と囁かれたのが、平成9(’97)年の安室奈美恵。しかし翌年5月に無事出産、1年後の『紅白』には去年と同じ『CAN YOU CELEBRATE?』を涙で熱唱した。 【それまでは断っていたけれど…】「美貌が必要だったんべ…(笑)」淡谷のり子が『紅白』に登場 さらに翌年に結婚が噂され「これが最後の紅白か?」と言われ、結果的にそうなったのが山口百恵、森昌子、南沙織、ザ・ピーナッツらである。しかし昌子、沙織は引退後に「一日だけの復活」として『紅白』に出場したことがあり、昌子においてはその後、離婚して歌手を再始動した年に『紅白』カムバックを遂げている。(現在はふたたび引退)。 さてキャンディーズは、「普通の女の子になりたい」と発言して解散引退を表明。翌年の4月解散に向けてのラスト『紅白』が昭和52(’77)年の『やさしい悪魔』だった。その後、3人はそれぞれで活動し、田中好子はすでに鬼籍に入っているが、今年の『紅白』では46年ぶりに伊藤蘭が『紅白』に登場するのが話題である。現在の朝ドラ「ブギウギ」で笠置シヅ子(ドラマ内では福来鈴子)を演じる趣里が、蘭の娘である。 その笠置も歌手を辞め女優の道を歩んだため、その前年の『第7回紅白』(’56年)が最後の出演となったが、笠置が歌手を引退した昭和32(’57)年の『紅白』の舞台で、しっかり引退した歌手がいた。小畑実である。 ◆「目から涙がポロポロと出だしましてね。しまいにはステージも客席も見えないほど…」 小畑は戦時中の『湯島の白梅』『勘太郎月夜唄』、戦後には『長崎のザボン売り』『星かげの小径』などの大ヒット曲を連打。その甘い歌声で雑誌『平凡』の人気投票で、女性1位が美空ひばりなら男性1位は小畑というほどの大スターだった。 それが昭和30(’55)年、男性1位を前年『お富さん』が大当たりした春日八郎に奪われ2位に。翌年、トップ返り咲きを狙ったが2年連続で春日がトップになった。 さらに翌32年には、春日に代わり三橋美智也が首位に立ち、若手歌手の台頭で小畑は10位まで転落してしまう。その結果を見て「歌手は人気があるうちが花。人気が落ち込む前に引退しよう」と自らの歌手人生に見切りをつけ、『紅白』を花道に17年間の歌手人生にピリオドを打ったのである。 “なつメロブーム”が起こる昭和40年代になって小畑は請われて歌手としての再スタートを切ったが、その頃にその日の『紅白』を回顧した文章が残っている。 「ステージに出たら、なんだか感情が胸に込み上げてきましてね。それは、プロですから歌うことは、歌いましたけれども、なかなか声が出ないんですね。そのうちに目から涙がポロポロと出だしましてね。しまいにはステージも客席も見えないほど涙が出てしまい、ともかくえらい感激したことでした」