朴槿恵、李明博は投獄…本屋の主人になった文在寅前大統領に収賄疑惑が浮上で「またか!」と韓国騒然
大統領経験者が在任中の不正事件に絡んで投獄されたり、自殺に追い込まれたりと悲惨な末路をたどるケースが続いてきた韓国。ここにきて検察当局が文在寅前大統領(71)を「容疑者」と見立てて捜査を進めていることが明らかになり、国内が騒然としている。 【だ、大人気だ!】文在寅前大統領と美女がガッチリ握手…群がるファンたち 文政権下で公団理事長に任命してもらった元議員側が、見返りとして文氏の娘婿(当時、その後離婚)を自らの格安航空会社の役員として迎え入れ、支払った給与が文氏に対する賄賂になるーーという筋書きだ。 娘や文氏の側近らは捜査を批判。徹底抗戦の構えで、検察出身者が要職を占める尹錫悦政権との対立が深まっている。一方、市民からは「政権が代わるたびに前大統領が投獄される光景はもうたくさんだ」との声も聞かれる。 ◆退任後は「書店の店主」。訪れるファンが絶えず今も人気 文前大統領といえば、北朝鮮との対話を重視する融和路線を取った一方、日本との関係では厳しい姿勢で臨み、日韓関係が極度に悪化したことは記憶に新しい。 引退後は慶尚南道(キョンサンナムド)梁山(ヤンサン)の平山(ピョンサン)村に居を移し、自宅近くに書店をオープンさせた。 筆者も昨年9月に同書店を訪れている。一時はアンチ文氏の保守系団体などが押しかけてスピーカーで“口撃”を繰り返していたが、訪問時には静けさを取り戻していた。店の関係者が“文氏は夕方に来る”というので待っていると、警護員とともに満面の笑みで登場した。 訪れていた支持者らが長い列を作り、文氏は笑顔で記念撮影と握手に応じた。’22年5月に退任した後もファンが多い。筆者も並んで文氏に「日本から来ました」と伝えたが、特段のリアクションはなかった。 今年5月に文氏は回顧録を出版している。 南北関係では自画自賛気味の話が目立つが、北朝鮮の金正恩総書記(40)が文氏との会談の際に「自分が(現地指導で)地方の現場に行ってもノートパソコンをいつも持参しているので、Eメールはいつでも送受信できる」と“メル友”になろうと持ちかけていたことなど、意外に面白い秘話も盛り込まれている。 馬が合わなかった当時の安倍政権については何度も言及し、南北関係絡みで「内政干渉に近い主張」や「対話に冷や水を浴びせるような主張」をしたと酷評している。 さて、今回の事件に話を戻したい。韓国メディアの報道によれば、文氏の元娘婿が’18年に格安航空会社タイ・イースタージェットの専務理事に就任したのは、同社の実質的オーナーとされる元議員が中小ベンチャー企業振興公団理事長に就任できたことの見返りだったと検察は見ている。そして、娘婿が’18年7月から’20年4月の間に受け取った給与とタイ移住費など2億2300万ウォン(約2400万円)が文氏への賄賂に当たるというのだ。給与受け取りのおかげで、文氏が娘夫婦への経済的支援をしなくてよくなったというわけだ。 ◆文政権の要人ら続々聴取……「玉ねぎ男」も 疑惑は文氏の在任中から浮上していた。当時の野党議員が指摘し、その後に市民団体などが告発して検察による捜査が始まった。当初は進展がなかったが、政権交代後の昨年9月、尹錫悦大統領(63)が検事総長だった頃に最高検報道官を務めるなど「最側近」の一人とされる検事が管轄地検のトップに就任。捜査が加速した。そして今年8月、検察が娘の自宅を家宅捜索した際、捜索令状に文氏を収賄の「容疑者」と表記していたことが報じられたのだ。 検察はこれまでに、娘の不正入学など疑惑への関与が相次ぎ浮上して「玉ねぎ男」と揶揄された曺国(チョ・グク)元法相(59)や任鍾晳(イム・ジョンソク)元大統領秘書室長(58)など、文政権の要職にあった人物らを聴取し、文氏や娘らの銀行口座を調べ、氏名が出てくる人物からも事情を聴くなど捜査を徹底。出国停止処分となっている人物も出ているという。元議員が公団理事長に就任することになった経緯などについて調べを進めている模様だ。検察はこうした捜査結果の分析を踏まえ、遠からず娘のダヘ氏や文氏本人から事情を聴く可能性がある。 文政権の不正疑惑に対する捜査は今回が初めてではない。文政権下の’20年9月に朝鮮半島西方の黄海で起きた北朝鮮軍による韓国人公務員の射殺・焼却事件を巡り、南北関係改善に不都合な情報の隠ぺいを図ろうとしたとして徐薫(ソ・フン)元国家安保室長(69)や徐旭(ソ・ウク)元国防相(61)らが後に逮捕されている。 また、文政権が’19年11月、海上の南北境界付近で韓国軍に拿捕された北朝鮮の漁民2人を亡命意思に反して強制送還したことに絡み、鄭義溶(チョン・ウィヨン)元国家安保室長(78)や盧英敏(ノ・ヨンミン)元大統領秘書室長(66)ら当時の高官を在宅起訴している。この件では、北朝鮮への強制送還を拒んで抵抗する漁民の写真を尹錫悦政権が公表。文政権の「非道さ」を印象付ける狙いとみられている。 いずれのケースも文氏までは司直の手が伸びなかったが、今回の娘婿の捜査は文氏自身の家族に絡む事件だけに、文氏が「容疑者」として明確な捜査対象となっている。 文氏の側近議員で大統領府高官も務めた尹建永(ユン・ゴニョン)氏(55)は最近、ラジオ番組で「文政権に対する弾圧であり、文前大統領に対する侮辱だ」「(米先住民の)雨乞いのように罪が出てくるまで捜査を続けている」と検察を痛烈に批判した。世論調査で支持率が下落傾向の尹政権の不人気ぶりから視線をそらしたいとの「政治的意図が明らかだ」と語る。 文氏の与党だった革新系の「共に民主党」は「前政権政治弾圧対策委員会」を組織して検察捜査に対抗する方針だ。委員会幹部は「過去に民主化を成し遂げるために軍事政権と対抗して戦った決意で、尹錫悦政権の検察独裁と対抗して戦う」と対決姿勢を強める。 文氏の娘ダヘ氏は、文氏が朴槿恵(パク・クネ)大統領(72)の弾劾、罷免を受けて実施された’17年5月の大統領選の投開票日、ソウル中心部の光化門広場で開かれた集会でステージに現れ、文氏とハグした光景が記憶に新しい。 あれから7年あまり。ダヘ氏は家宅捜索を受けた後の9月3日、SNSに文氏と自身が納まった写真を載せ、「もうこれ以上は我慢しない」と怒りをあらわにした。12日には「(検察にとって)私は父に刀を突き付けるために踏みつけられ、汚されて当然の馬にすぎない」と心情を吐露した。立件に躍起となって家族らを調べ上げる検察を批判する趣旨だ。 ダヘ氏は文氏の在任中、産経新聞のソウル駐在客員論説委員の黒田勝弘氏のコラムで「日本に留学したことがある」と報じられている。当時、韓国の保守系勢力からは「『反日大統領』として知られる文大統領の娘」が日本に留学していたと揶揄する声が続出したが、当時の大統領府は韓国メディアの問い合わせに「確認できない」と答え、事実確認を避けていた。 捜査の焦点の一つは、文氏と娘夫婦が「経済共同体」だったかどうかを立証できるかだ。今回、航空会社から給与を受け取ったのは元娘婿だが、第三者供賄容疑ではなく直接、文氏による収賄容疑で捜査が進んでいるとされる。 文氏がもともと娘夫婦に経済支援を行っていたものの、給与のおかげでそれを中断できたことにより文氏に経済的利益がもたらされたーーという論法が立証できれば検察の筋書きが成立する。 ただ、報道によれば元娘婿は航空会社専務に収まる前はゲーム会社で勤務していたため、経済的に自立していたとの見方もある。韓国では著名人が絡む事件で無罪判決が出るケースも少なくない。実際に文氏を容疑者として立件できるかどうかは予断を許さない。 ◆「経済大国なんだし、もういい加減……」の声も 繰り返されてきた元大統領の悲惨な末路。文氏の前任の朴槿恵氏は職務権限を私物化したとして史上初めて罷免され、巨額の収賄罪などで服役後に特別赦免(日本の恩赦に相当)された。 その前任者、李明博(イ・ミョンバク)氏(82)も退任後に収賄罪などで服役し、特別赦免されている。さらにその前任の盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏は’09年に不正資金疑惑で検察の捜査を受けて自殺した。古くは軍人出身の盧泰愚(ノ・テウ)氏が収賄容疑、全斗煥(チョン・ドゥファン)氏が粛軍クーデターの反乱首謀容疑により相次いで逮捕され有罪となったが、いずれも特別赦免されている。 そして今、文氏に対する捜査が進んでいるわけだが、政権が代わるたびに前任者が立件される「政治報復」が繰り返され、それが世界に報じられるのは恥ずかしい、という世論は韓国内にもある。 保守系で文氏に批判的な筆者の知人も「もう世界10位圏の経済力を得たのだから、開発途上国のような政治劇の繰り返しは国のイメージのためにもやめたほうがいい」と話す。日本の友人からよく聞くのは「末路が悲惨だとわかっているのになぜ大統領になりたいと思うのか」という疑問だ。疑いがあれば捜査は必要、ということなのだろうが、「前大統領に捜査のメス」と聞くと「またか……」と辟易するのは筆者だけではないようだ。 撮影・文:小野原遼成
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