餅つき仮設に元気 地域の温かみ変わらず 「やっぱり輪島におりたいわ」
「よいしょー、よいしょー」。すっきりとした青空の下、被災地の仮設団地に威勢の良い掛け声が響く。1日午前、輪島市マリンタウン第2団地で有志が開催した餅つき大会。元気な声に吸い寄せられるように、仮設の住民だけでなく、道行く若者からお年寄りまでが続々と加わった。それぞれに新年の幸せをかみしめ、力いっぱい杵(きね)を振るっていた。(政治部・若村俊) ◇ ◇ 「いいぞ、上手や」「その調子」。蒸し上がった餅米のいい香りが漂う中、大勢が見守る輪の中心で、周囲の掛け声に合わせて餅をついていたのは大向彩菜さん(7)だった。 昨年の元日は埼玉の自宅から父直樹さん(51)の実家がある輪島に帰省中、地震に遭い、スリッパのまま高台に逃れた。この1年で様変わりした街の風景に戸惑いながらも、変わらぬ地域の温かみを感じた様子だ。「このお餅はおばあちゃんにあげたいな」と照れ笑いを浮かべた。 餅つきは輪島で少年時代を過ごした1977年度生まれの同級生でつくる「チーム輪島人」が企画した。中心メンバーの一人、会社員田中拓也さん(47)=東京=は「震災1年を一つの区切りに親世代を元気づけ、子どもたちに希望を感じてもらいたかったんや」と力を込めた。資金を集め、杵や臼を借りてそろえたという。 参加者の中に、周囲から「先生」と呼ばれるおばあちゃんがいた。仮設で独り暮らしをしている道端晴美さん(80)だ。餅を返す合いの手は、傘寿と思えないほどキレがある。 聞けば、自宅が地震で全壊するまでは毎年年末に餅つきをして、近所にも配っていたそうだ。誤って杵で道端さんの手の甲を打ちそうになった若者にも優しく指導していた。 「やっぱり輪島におりたいわ。輪島しかどんならん」。昨年5月の入居以来、「きょうが一番楽しかった」と目を細める道端さんの言葉が胸に響いた。