エネルギー小国日本の選択(17) ── 変わるエネルギー業界の今
競争進むエネルギー業界
原発再稼働をめぐっては電力業界で一致団結している一方、業界内の競争や再編は着実に進んでいる。大手が地域ごとに棲み分け、電気事業を独占する時代は終わった。 自由化は1995年に卸売分野などから徐々に規制が緩和され、参入者が増えていた。しかし大手電力間は互いに他電力のエリアに乗り込まないような、ある種の「紳士協定」があり、競争は低調だった。 それが2016年4月、小売りの全面自由化を契機に一変した。都市ガスや石油元売りといったエネルギー企業のほか、流通、鉄道、不動産などさまざまな業種から「新電力」と呼ばれる新規参入者が相次いだ。東電をはじめ、電力大手は顧客を奪われ、「競争環境は厳しい」と経営陣は口を揃える。電力同士で顧客の奪い合いも起きている。東電は約200万件が新電力に流出した。群雄割拠の大競争時代、というにはまだ早いかもしれないが、その兆しが見えつつある。 自由化の設計図を描いた経産省の目論み通りと言えば、そうかもしれない。電力会社の大再編も視野に入る。官僚を忌み嫌い、「電力の鬼」と呼ばれた業界の重鎮、松永安左衛門(1875~1971年)が戦後確立に奔走した9電力体制(沖縄電力が加わり現在10電力体制)の協調は崩れつつある。 現在、国内エネルギー業界の相関図は複雑だ。「右手で握手しながら、左手では殴り合っている」と表せば分かりやすいだろうか。そんな企業間の関係が目立つ。 象徴的なのは、東電と中部電力だ。原発が動かず火力発電を焚き増している両社は、2015年4月に火力部門で協力するための共同出資会社、JERA(ジェラ)を作った。これにより燃料の液化天然ガス(LNG)の調達費は抑えられ、協力はうまくいっているように映る。一方で、自由化を機に域外販売を強める東電は、中部電の大事な顧客を奪った。愛知県にある三菱自動車の岡崎工場だ。背に腹は代えられない東電の「形振(なりふ)り構わぬ」(中部電関係者)やり方に、反感を抱く電力大手は少なくない。