朝ドラ『虎に翼』寅子はアメリカ視察で何を見た? 女性裁判官の活躍と先進的な制度に感銘を受けた三淵嘉子さんが目指したものとは
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』では第15週「女房は山の神百石の位?」がスタート。物語は寅子(演:伊藤沙莉)がアメリカ視察から帰国したところから始まった。“自由の国・アメリカ”で異なる文化に触れた寅子は、華やかなワンピースとサングラス姿で登場。メディアにも注目されて、有頂天になっている一方、家族らは微妙な顔をする……という流れだ。アメリカ視察の内容には触れられなかったが、史実では寅子のモデル・三淵嘉子さんが約3ヶ月にわたってアメリカ視察を行っていた。 ■海外留学の経験から女子教育・女性の権利向上の課題に取り組む 昭和25年(1950)、東京地方裁判所民事部の判事補だった三淵さんは、日本から派遣されるアメリカ視察隊のメンバーに選ばれた。同年5月に横浜から出航すると、10日間ほどかけてアメリカ・シアトルに到着。その後はシカゴ、ニューヨーク、ワシントンD.C.を経て最終的にはサンフランシスコにも滞在し、約3ヶ月かけて現地の司法の現場や家庭裁判所の職員らの働きぶりを視察している。視察隊には、戦後初の女性弁護士であり法務府事務官となっていた渡辺道子さんも含まれていた。 ちなみに、当時のアメリカ大統領は、フランクリン・ルーズベルトの後を継いだハリー・S・トルーマンだった。第二次世界大戦の終戦から冷戦開始に関与した人物で、在任中にNATO(北大西洋条約機構)やCIA(中央情報局)、NSA(アメリカ国家安全保障局)、国防総省を創設している。 三淵さんら視察隊がアメリカに到着してから1ヶ月後の6月25日に、朝鮮戦争が勃発。アメリカとソ連、そしてそれぞれの陣営が対立する冷戦時代の代理戦争が始まった。物語には直接関係ないが、これをうけてGHQは日本において警察予備隊の創設を急いでいる。 さて、三淵さんは激動のアメリカで何を目にしたのだろうか。帰国後はアメリカの家庭裁判所における職務内容や給与、事件の処理やコスト面で日本とどのように違っているのかなどを詳細に報告している。なかでも三淵さんが強調したのが「プロベーション・オフィサー」という職だったという。作中では「調査官」と言い表されていたが、日本の家庭裁判所における調査官と調停委員の職務内容を合わせたようなことをしていたようである。ちなみに「プロベーション」とは、「刑罰の宣告を猶予する制度」だ。 専門的な教育と訓練をうけた職員が裁判官のサポーターとして大きな役割を担っていることに、三淵さんは驚いた。家庭裁判所における実務を担当するための「専門性」に注目したのだ。これからの日本に重要なのは、教育と経験に裏打ちされた確かな仕事ができる人材だと考えていたのだろう。 作中では寅子が女性が法曹界で活躍する姿を熱弁していたが、三淵さんも同様に女性裁判官たちの仕事ぶりを目の当たりにして感銘をうけたという。同時に、託児所や食堂、寝室といった施設が充実していることにも言及している。 終戦から6年が経過し、日本の司法制度や家庭裁判所の形が出来上がっていくなかで、これからどう発展させていくかを考えなければならない段階を迎えた三淵さんの目には、アメリカの司法や家庭裁判所の現状が新鮮かつ先進的なものに映っていたのだろう。 <参考> ■清永 聡『三淵嘉子と家庭裁判所』(日本評論社) ■神野潔『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)
歴史人編集部