「クーロンの法則」は「万有引力の法則」のパクリなのか?…じつはうりふたつな二つの法則
物理に挫折したあなたに――。 読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。 【写真】「クーロンの法則」じつはクーロンより先にキャベンディッシュが発見していた 本記事では〈「クーロンの法則」、じつはクーロンより先にキャベンディッシュが発見していたという「意外な事実」〉に引き続き、クーロンの法則と万有引力の法則の関係をみていきます。 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。
クーロンの法則は万有引力の法則のパクリか?
ところで、もう一度、クーロンの法則の公式をよくご覧いただきたい。 この式を見て、別の物理法則を思い出さないだろうか。ヒントは逆二乗則である。 逆二乗則が登場する物理の公式といえば、そう、「万有引力の法則」である。物理音痴であっても名前ぐらいは知っているだろう。 「万有引力の法則」は、イギリスの物理学者ニュートンによって1665年に発見された。万有引力とは、すべての物体の間に働く引力のことで、物体の質量の積に比例し、物体間の距離の2乗に反比例する力が働くとする。 万有引力の法則を式に表すと下記のようになる。 相互の質量の積(Mm)に比例し、距離の2乗(r2 )に反比例する大きさを持つ。万有引力の法則とクーロンの法則では比例定数が異なり、質量と電荷という違いはあるが、逆二乗則という点ではまさにうり二つである。 前述したように、ニュートンによって万有引力の法則が発見されたのは1665年で、クーロンやキャベンディッシュがクーロンの法則を発見したのは、それから100年以上経ってからだ。 クーロンやキャベンディッシュはそのアイディアを万有引力の発見者であるニュートンからパクったように見えるかもしれないが、実際には、逆二乗則自体はニュートンのオリジナルではなく、ニュートンが研究をしていた時代には、すでに万有引力が逆二乗則だということは多くの人間が予想しており、ニュートンはそのアイディアを数学的に体系づけた理論に昇華させただけだったそうだ。「だけだった」と言ってもそこがいちばん難しいのだけれど。 逆二乗則はもちろん、電荷から遠くなると力が弱くなるという期待される性質を表現しているが、ちょうど2乗分の1だということがいろいろ便利な性質につながっている。 たとえば、静電気力は「一面に電荷が広がっている場合、働く静電気力が平面からの距離によらない」という性質を持っている(次の図参照)。これは、『学び直し高校物理』で後述するようにきわめて重要な性質である(わかる人のために言っておくと平行板コンデンサー間の電場の値が一定であることを保証している)。 『学び直し高校物理』Chapter12に登場する「コンデンサー」は、逆二乗則の原理を応用した電子部品である。コンデンサーは電荷を蓄えることができるデバイスで、これなくして電子回路や半導体は成立しない。 これはたったひとつの例にすぎないのだが、逆二乗則というのは伊達に逆二乗則なわけではなく逆一乗則や、逆三乗則だったらけっして起きないことが起きる、特別な逆N乗則なのである。
田口 善弘(中央大学理工学部教授)