GG賞に輝いた名手が実施する野球教室 対象は指導者…日ハム元エースが語る開催の意義
子どもたちを指導する監督、コーチに守備の基本を伝授
ゴールデン・グラブ賞を受賞したOBが守備を教える野球教室がある。受講者は野球少年少女ではない。この野球教室で講師を務め、現役時代は「トレンディ・エース」の異名で人気を博した西崎幸広氏(元日本ハム、西武)に真相を聞いた。 【写真】引退から11年も変わらぬスタイル 超イケメンの46歳レジェンドが「かっこよすぎ」 「その野球教室は、選手が対象ではなく、ジュニア野球の指導者のための野球教室なんです」と西崎氏。全国のジュニア、リトル、シニア、小学校のクラブチームや部活動を率いる監督やコーチが対象だ。指導者を指導する野球教室というわけだ。しかもゴールデン・グラブ賞を受賞したOBが指導するということで、打撃や投球がメインではなく、守備に特化した野球教室というのも特徴だ。 受講者の野球経験はさまざまだが、指導者のレベルは問わず、子どもたちの体に負担をかけない、怪我をさせないための正しい練習や指導方法を学ぶ。投手である西崎氏は1988年と1996年にゴールデン・グラブ賞を受賞。2011年から野球教室の指導に参加し、これまで全国各地で開催された22回のうち15回参加している“常連”だ。 子どもへの野球指導法が昔と今で大きく変わったことは、しばしばメディアでも取り上げられている。西崎氏は「今には今のやり方がある」とし、「上から押し付けるような指導、大人の権力や体格差を使って恐怖を与えるような指導はもってのほか」と話す。それを言葉で指導者に伝えるとともに、子どもたちの上達のヒントを教えていく。 子どもが参加する野球教室も経験している西崎氏は、指導者向けと子ども向け指導の違いをこう話す。「私が子どもたちへ指導をするとなるとその日1日限りですが、指導者向けの指導は、その指導者が1年、2年と子どもたちと接していきますよね。ということはその指導者の方にしっかり教えれば、子どもたちは常に正しい練習法で練習できるというわけです」。
重視するキャッチボール「指導者の皆さんも案外できていなかったり」
大切にしているのは「キャッチボール」と「子どもに自分で考える力を養わせること」だ。キャッチボールについては、なぜ大切なのかを理解していない指導者が多いと話す。「指導者の皆さんも案外できていなかったり(笑)。すべての動作の基本であり、怪我予防にもなるキャッチボールをおろそかにしないようにというのを、まず教えています。それがしっかりできているチームはやっぱり強いですから」。 投げて捕る動作の連続がキャッチボールではない。まずは構えから。子どもの7割がセットポジション、2割がノーワインドアップ、1割がワインドアップから投球動作に入るそうだが、「自分に合った構えを自分で見つけるのがいいと思います」と西崎氏。「自分のリズムが取りやすいのであれば、矯正する必要はないわけです。そういうことを子どもの時から自分で考える癖をつけさせるのです」と力を込める。 後足から前足への体重移動、ボールへの力の伝え方、指先の感覚など一連の動作を解剖していくことは、怪我予防の観点でも大事だ。「なぜキャッチボールをするのか」という意味を理解してやるのと、ウォーミングアップ的にやるのではまったく違うのだと西崎氏は説く。「プロもキャッチボールは入念に行うんです。体重移動とか肩の可動域とか、コンディションとかをひとつひとつ確かめながら投げる。なので、子どものうちからじっくり時間をかけてやるように教えているわけです」。 それから、キャッチボールの相手に近い距離で力いっぱい投げないこと。そんな「思いやり」も身につけるようにと指導者に伝えている。野球を通じて仲間を思いやり、人間的にも成長していくことを目指してもらいたいという。投手の守備については、「まずは後ろにそらさないためにはどうすればいいか」を伝える。 「投手は9番目の野手である」という意識付け。「投げたら投げっぱなしの子がいるので、自分の捕れる範囲内でボールをしっかりと捕ることによって、自分を助けることになると伝えてくださいという話をします」。 西崎氏はゴールデン・グラブ賞の思い出について「まさかだったんですよね。特に1996年はライバルも多く、とれるとは思っていなかった」と笑うが、基本をおろそかにせず、地道な守備練習を積んだことが実を結んだのだろう。「この野球教室が間接的にでも将来のゴールデン・グラブ賞受賞者につながったら嬉しい」と話した。
「パ・リーグ インサイト」海老原悠