『笑点』卒業の林家木久扇86歳、波乱万丈の “おもしろ”人生~③息子・木久蔵を有名にする秘策、卒業を決断した理由
■息子・木久蔵さんへの思い
せがれ(木久蔵)は古典落語をやっていて、今140ぐらいできる。やれって言ってすぐできるのは10ぐらいで。さらえばできるのが140って言っていましたけどね。僕より勉強家で、それで結構真面目すぎるんですよ。だからって言って与太郎じゃいけないんだけども。真面目な落語家はあんまり面白くならないから、もっと幅をね。例えば僕なんかはラスベガス行ったりハリウッド行ったり、その元のところへ結構行っているんですよ。向こうは、落語はないですよ。ひとりしゃべりはあるんですよ。こういうやり方するんだと思って。人に見せるっていうのは、こういうふうにやるんだなと思って。
僕、出方をね、寄席でエルトン・ジョンを使っているんですけどね。エルトン・ジョンっていう人が出てきます。わーって(観客へ)挨拶しますね。なんか(客席の)上の方までやっているんだけど、見るとね、上は3階はないんですよ。2階までしかないんだけど、こうやっていると大きさが出ますよね。各方面に挨拶してエルトン・ジョンは下がっちゃうんですよ。演奏すると思ったら下がっちゃったと思って。観客が長いこと下がっているからイライラしてくるでしょ。すっと出てくるんですよ。うわーってウケるんですよ。これはいただきだなと思って、寄席でやってみたんですけどね。下がるのと、いつまでも隠れているのが、難しかったですね(笑) やってみて、ウケねえの(笑)
■『笑点』卒業のきっかけ
やっぱり年齢的なことがあって、寿命を考えるようになってね。86(歳)でテレビレギュラー持っている人なんていないんですよね、世界中探してもね。黒柳(徹子)さんはやっていらっしゃるけど、あれは司会で、お笑いでやっている人はいないですね。最初はテレビに映れば有名になれるし収入も増えるし、すげえなと思っていたんですけど、だんだんいつも面白い人と思われる。例えば新幹線のホームで立っています。どこかのおばさんが寄ってきて、「どうも、いつも見ているわよ」。ありがとうございます。「面白いわね」。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします、で終わらないで、おばさんずっと立っている。何か面白いこと言うと思って、誰が外で知らない人に面白いことタダで言いますか?(笑) そういうことがね、すごく重なってね、面白い人って大変なんだと思う(笑) ――55年出演した『笑点』、今の思いは? 僕は、すがすがしく出ていきたいんですよ。というのは今まで見ていると、突然いなくなったり、病気してお別れになったり、いなくなるときの形が、「えっ」というのが多かったんですね。僕はまだ元気で、まだできるじゃないのなんて言われているうちに下がっちゃおう。うちのおかみさんが言ったんですよ。「もういいんじゃないの」って。きっと飽きちゃったんですね(笑) 【林家木久扇さんProfile】 1937年(昭和12)10月19日生まれ 1960年(昭和35)8月、三代目 桂三木助に入門。桂木久男を名乗る 1961年(昭和36)八代目 林家正蔵 門下に移り、林家木久蔵となる 1965年(昭和40)二ツ目昇進 1973年(昭和48)真打ち昇進 2007年(平成19)林家木久扇襲名 2024年(令和6) 3月31日をもって55年出演した笑点を卒業