エンゲージメントは「やりたいこと」の先にあるのか ~現代社会における【自己実現】の誤解と限界~
本当の主体性はどこに生まれるのかー「やりたいこと」vs.「やらざるを得ないこと」
哲学者の國分功一郎氏は、著書『<責任>の生成―中動態と当事者研究』の中で、「責任とは、もともと『ある』ものではなく『立ち上がっていくもの』」であり、本当の意味での主体性は、「能動的に」でも「受動的に」でもなく、環境からの要請に迫られて「やらざるを得ないから、やっている」という中間に生まれるものだ、と表現している(※6)。 このことを私たちは経験的に知っている。ある種の「仕方なさ」を感じながらも、「自分がやるしかない」という姿勢で行動し続けた結果、そこに真の主体性と覚悟が表れることがある。 実際に、明確な役割と責任を与えられた社員のうち83%が高い生産性を発揮し、高い帰属意識を持つという調査結果がある(※7)。「やらざるを得ないからやる」「学ばざるを得ないから学ぶ」という環境の中で面白さを見出し、その過程に深い喜びを見出すことのできる人は、結果的に「(自分は)やりたいことをやっている」という非常にコンサマトリー(※a)な生き方を見つけていくのである。もちろん、引き受けられる責任の範囲には、能力的にも時間的にも限界がある。だからこそ、どんな責任なら今の自分に引き受けられるのか・引き受けてみようと思えるのか、という問いに答える中で、自ずと自分らしさが反映されるのだろう。 人間は本質的に社会的な生き物であり、関係性の中に生きている。環境から個人だけを切り取って、「何がやりたいのか?」と問うばかりでなく、あらゆる仕事の中でも自分なりの意味を見つけられる能力の開発こそが求められているのかもしれない。「私がやるしかないと思ったからやっている」。そう覚悟を決めていきいきと話すリーダーがあふれた社会をつくること、そしてその存在に気づき、敬意をもって「ありがとう」と言い合える社会をつくることは、私たちが真剣に取り組むべき課題なのではないだろうか。 ・あなたがこれまで自ら引き受けてきた責任の中には、どのようなものがありますか。 ・より良い社会をつくるために、あなたが引き受けられる責任には他にどのようなものがありますか。 ※a コンサマトリー:アメリカの社会学者タルコット・パーソンズが提唱した概念であり、「それ自体を目的とした」「自己充足的」を意味する。「結果ではなくプロセスそのものを楽しむ」ことのできる状態を示す。 【参考文献】 ※1 Dan Pink, General Session with Dan Pink: Beyond Resilience: A New Path to a Strong Culture, Keynote address presented at the ATD24, May 21, 2024, New Orleans, US. ※2 Eric Johnson, "Employers, you have a problem: Gen Z worker 'quiet quitting' has evolved into 'resenteeism'", CNBC, April 23, 2024 ※3 ”State of the Global Workplace: 2024 Key Insights”, Gallup, Inc., 2024 ※4 村山昇(著)、『働き方の哲学』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年 ※5 Rod Farmer, “Misinterpretations and Misconceptions of Maslow's Theory”, Self & Society, 12:2, 65-74, 1984 ※6 國分功一郎、熊谷晋一郎(著)、『<責任>の生成―中動態と当事者研究』、新曜社、2020年 ※7 Lieke Pijnacker, ”HR analytics: role clarity impacts performance”, Effectory, September 25, 2019
Easterlies 編集部