安全と信じていたのに健康被害に… 過去にもあった「ヤバい薬・化粧品」たち
■有名な商品でも・・・ 紅麴の健康被害に関して、国内外で影響が広がっている。機能性表示食品に有害物質が含まれていたというのだから、問題視されるのも当然である。「機能性表示食品だから安心、安全」として購入する消費者は多かったはずだ。 だが、それまで平気と思って常食していた食品、愛用していた化粧品や薬品が人体に有害とわかり、販売中止になった例はいくつもある。 比較的近いところでは、昭和を代表する常備薬であった消毒薬の「赤チン」やカネボウ化粧品の美白化粧品が挙げられよう。 「赤チン」の正式名称はマーキュロクロム液。傷口に塗ると赤色になることから「赤チン」の愛称で親しまれた。1960年代には全国で約100社が製造していたが、製造過程で水銀を含む廃液が発生することから避けられ始め、1973年には国内での原料生産が終了していた。 その後は原料を海外から輸入しながら生産が続けられたが、相次ぐ競合商品の登場もあって、売れ行きは落ち込むばかり。2020年12月には唯一の生産元だった三栄製薬が製造終了を決めたことで、その歴史に幕が下ろされた。 ■鉛、水銀、放射性物質…危険すぎる化粧品 一方、カネボウ化粧品の美白化粧品は空前の美白ブームの申し子とでも呼ぶべき商品だったが、2013年7月、肌がまだらに白くなる「白斑」の症状が多く出たため、使用中止の呼びかけとともに、商品の回収、医療費や通院に伴う交通費の全額負担、慰謝料の支払いなどがなされる騒ぎとなった。 毒のある化粧品と言えば、日本では奈良時代から幕末まで長く使用されていた白粉も思い出される。これには鉛と水銀が含まれていたため、塗っていた当人はもとより、白粉を塗りたくった女性から授乳された赤子にも健康被害が及んだはずで、日本人の平均寿命が長く低迷した背後には、白粉による中毒症状も関係していたのかもしれない。 鉛も水銀も危険だが、実はそれ以上に危険な化粧品が売られていたことがある。1933年にフランスの首都パリで、「奇跡のクリーム」というキャッチコピーで発売された「Tho―Radia」がそれである。この名称は原料であるトリウムとラジウムにちなんだものと言う。 まだ放射能の危険性が認知される前のことなので、放射能は最先端の科学により生み出され、人類に恩恵をもたらす万能物質のごとく受け取られていた。トリウムとラジウムを含む商品はクリームに留まらず、口紅やパウダー、軟膏、石鹸、座薬からカミソリの刃、エネルギー飲料、コンドームまで非常に多岐にわたった。 まったくプラスの効果はなかったものの、幸いにして含有量がわずかであったため健康被害が出ることもなく、放射能の危険性が広く認知されるとともに、世の商品棚から姿を消した。 ただし、ラジウムの発掘作業にあたる現場やラジウムを含む塗料を扱う工場などでは深刻な健康被害や癌患者の続出が多く報告され、因果関係が明らかになるまで、被害者やその遺族は長くて辛い法廷闘争を経験しなければならなかった。 よかれと信じて摂取したもののせいで健康被害だけでなく、命を縮める結果に。古代から近世にかけ、東西の宮廷で盛んだった錬金術もその一例で、水銀を口から体内に摂取するなど、現代人の感覚からすれば、正気の沙汰とは思えない行為である。 このように、紅麴の健康被害は古くて新しい問題である。原料が変わっただけで、人間は簡単に騙される。安全なものと危険なものの判断を他人任せにしている限り、この悪循環を断つのは難しいかもしれない。
島崎 晋