三宅香帆 『虎に翼』を見ながら読む3冊
「仕事と読書を両立するのは難しい」。でも、だからこそなんとかしたい!と思っている人も多いのではないでしょうか。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社)著者で文芸評論家の三宅香帆さんが、働きながら読書する日々を綴り、「働いているからこそ面白く読める本」を紹介します。今回は話題のNHK朝ドラ『虎に翼』で考える3冊を取り上げます。 【関連画像】『男子系企業の失敗』(ルディー和子著/日本経済新聞出版) 4月某日 4月から始まったNHK朝の連続ドラマ『虎に翼』がすっごく面白い。それはもう面白い。毎週、展開にぐっとくる。キャラも好きだ。衣装や家や学校のセットがなにより美しくて好きだ。 『虎に翼』は、日本ではじめて弁護士、裁判官になった女性をモデルとして主人公に据える物語である。4月現在、時代は昭和初期。主人公・寅子はお見合いを嫌がり、まだ女性には法曹界への扉が開かれていないにもかかわらず、先んじてつくられた私立大学の女子法科に入学する。そして寅子は、法学の世界へ飛び込むとともに、これまで出会うことのなかった境遇の友人、あるいは法廷裁判の世界を知ることになる。 さてこの『虎に翼』、およそ100年前の法律の話である、という点が絶妙に面白い。まだ日本国憲法も存在していなかった頃、女性は法律でどのように扱われていたのか? そして社会はどのように人権意識を持っていたのか?(何せ、「人権」という言葉が、今のような「人権」の意味で使われていたかも曖昧な時代である。「債権」という意味もあったらしい……)。そんなことが分かって、大変面白いドラマなのだ。 そのなかで、とても興味を惹かれるのが、やはり大多数を男性が占める法学部において、寅子たち少数派の女子生徒がどのように振舞うのか、という展開である。現代においても企業の幹部はいまだ男性が大多数を占めているが、100年前の同じような少数派の女性たちが、同じような苦悩や同じような喜びや同じような悔しさを味わっていたのかと思うと、なんともいえず胸がいっぱいになる。 そういう意味で、『男子系企業の失敗』(ルディー和子著/日本経済新聞出版)は、やはり現代でも男性が多数派を占める企業文化のどこがマイナスなのか、という点をクリアに指摘した本で、『虎に翼』を読みながら思い出す箇所がいくつかあった。正直、本書の指摘も、どこまで本当か分からない点もある。しかしそれでもやはり日本企業が今後発展していくにあたり、ジェンダーギャップを修正することは急務ではないだろうか、ということはたしかであるように、本書を読むと思うのだ。